ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第31話 真夜中に鳴く鳥

 わたしたちは畳の上に座っていた。お菓子とは違う甘い香りがほのかに匂う。ナデシコの匂いだ。あの人は着物で花を生けている。優しい眼差しでナデシコを丁寧に扱っていた。ときどきどの草花を使うか迷っていたけど、彼女の手によって花たちは見事な芸術品へと生まれ変わっていく。綺麗に切りそろえられた髪。落ち着いた色合いの袴。彼女の仕草の一つ一つが上品でまるで真夜中に揺れる桜のようだった。まさに大和撫子

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「いいなぁ……□□□さんは女らしくって……」

 □□□さんは手を止めた。どうしたの、と訊きたそうに小首をかしげた。やっぱり綺麗だ。4、5歳違うだけでこんなに大人っぽくなるのかな。大人っぽさの間にも小さな女の子のような愛らしさがある。まるでお人形さんみたい。がさつなわたしとは全然違う。

「△△に女らしくないって言われたんです。わたしも□□□さんみたいにおしとやかになれればいいのに」

 わたしの顔は中の中。身長は平均。胸も普通。性格は明るくて負けず嫌い。正直、男の子の目から見たらかわいくないかも。わたしも□□□さんみたいに綺麗でおしとやかだったら△△もわたしを好きになってくれるかな。

 少し泣きそうになって顔をそらした。言いたいことだけ言ってそっぽを向くだなんてわたしは子どもだ。

「●●さんは十分かわいいと思いますよ」

 後ろから優しい声が聞こえてきた。そんなことない。わたしは自分勝手で、負けず嫌いで、素直じゃなくて、全然かわいくない……。

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***

 

 霧が晴れるように夢から覚めた。目を開けたら真っ白な天上が目に入った。ここは私の部屋じゃない。トレーナーズスクールでもない。民宿くろがねでもない。ここは…………どこ?たしかわたしは発電所を出たはずじゃ……?

「ポチャチャ!」
「トレーナーさん!」

 両耳から異なる声が入ってきた。右側にはまくらのとなりにナポレオンが、左側にはライコちゃんとフワンテがベッドの横から私を見ていた。

「ライコちゃん……?」
「よかった!気がついたのね!はつでんしょを出たらトレーナーさんが倒れていたの!だからパパとおまわりさんがトレーナーさんをびょういんまではこんでくれたの。あのときおまわりさんと花やのおねえさんがかけつけてくれてほんとうによかった!」

 わたしはまばたきした。そっか。私気絶しちゃったんだ。親子の再会に水をさしたくなくてこっそり発電所を出たのに倒れて迷惑かけちゃうだなんて本末転倒だわ。

 寝返りを打ったらナポレオンと目が合った。ナポレオンは心配そうな目で私を見ている。…………安心させなきゃ。もう大丈夫だよって。

「おはよう。ナポレオン」

 わたしが言ったのはそれだけだった。そのたった一言でナポレオンの表情が90度変わった。

「ポッ、ポポチャポチャポチャ!ポチャチャチャマポッチャ、ポッチャマ!」

 笑いがこぼれた。はいはい。「し、心配させないでよね!これでもあんたは私のご主人様なんだから!」とでも言ったのかな。あいかわらず脳内ではなぜか女言葉に変換しちゃうけど。

「あら?お目覚めですか?」

 知らない人が病室に入ってきた。薄桃色のポケモンとともに。

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  まず一番最初に目に入ってきたのは緑だった。白い白衣から見える長めのニットワンピース。生まれたての若葉のように緑色の長髪。髪は三つ編みされていて右肩から垂れ下がっていた。背が高くて大人っぽい。とても優しそうな顔をしている。夢の中で出てきた少女に似ているけどどちらかと言うとわたしのママに似ている。目がやさしい目がママにそっくり。

「初めまして。あたしの名前はモミ。ここの診療所でお手伝いをしているの」

 モミさんはにっこり笑って私の手を取った。脈を図ってるんだ。

「モミさんのパパとママはおいしゃさんなの。モミさんはマッサージし。アロマセラピーをつかったマッサージがとくいなの。」

 モミさんからハーブの香りがした。やっぱりママと同じ癒し系だ。

「ラッキー」

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 モミさんと一緒に入ってきたポケモンナデシコが入った花瓶の水を入れ替えた。名前はラッキー。薄桃色の丸い体に三つに分かれた細い耳がついている。その姿はまるでヒラヒラした飾りをつけたピンク色のタマゴみたいだった。お腹にはポケットがあって中にタマゴが入ってる。めずらしい……。野生のラッキーはなかなか見つからないのに……。シンオウ地方にも生息しているのね。

「……って寝てる場合じゃないわ!早く次の町に行かなくちゃ!」
「ポチャッ!?」 

 ナポレオンを抱えてベッドを飛び出した。窓際に置いてあるバッグを開いて中身を確認した。ビッパー、クルル、キララ、セニョール、ラミア……全員いる!

「勝手に倒れてすみません。ご迷惑をおかけしました!もうちょっとゆっくりしたいところですが私にはやらなければいけないことがあるんです。だから行かなければいけません。治療費はいくらでしょうか?」

 興奮して早口で話しちゃった。モミさんとライコちゃんとラッキーはきょとんとしていた。

「治療費はけっこうです。あなたはギンガ団から発電所を救ってくれた恩人ですから。それくらい元気ならもう退院しても大丈夫ですね」

 ラッキーは穿いたうなずいた。

「ラッキー♪」

 わたしはふう、とため息をついた。よかった。ダメ押しされると思った。意外とあっさり退院許可出してくれたし治療費がいらないなんてラッキーの言うとおりラッキーだわ。…………まあ、ラッキーの場合鳴き声が「ラッキー」だから「ラッキー」って言ったんだけど。

「ヒカリさんでしたっけ?あなたが倒れたのは疲労が原因のようです。フタバタウンから来たと聞きましたがもしかして旅のペースが速すぎたのでは?」
「うっ」

 図星だった。ほとんど運動したことがないのに旅に出たから急に体を動かすことになった。まだ体が完全に慣れてない。コトブキシティに泊まった日は大丈夫だったけどラミアと戦った日は疲労がすごかった。ヒョウタさんと戦った次の日も筋肉痛がひどかった。今はどこも痛くないけど……。発電所のときは無茶をしちゃった。『クロガネゲート』を通ったあとコトブキシティでギンガ団と戦ってさらに『荒れた抜け道』を抜けた。フラワーショップ『色とりどり』で少し休んだとはいえそのあとすぐ『谷間の発電所』に特攻して倒れた。よく考えたら最悪だ。

 でもそれくらいがんばって進まないとジュンに置いてかれちゃう。ジュンにだけは負けたくない。誰にも負けたくないけどジュンに一番負けたくない。ジュンに負けたら他のどのトレーナーに負けたときより悔しくなる。それくらいジュンの存在は大きい。私は知識によく頼るけどジュンは本能で戦っている。そんな気がしてならない。もしかして私よりジュンのほうがポケモンに才能があるかもしれない。……負けたくない。ジュンに自分より下だと思われたら捨てられるかもしれないもの……。

「トレーナーさん。『ハクタイのもり』に行くにはもうおそいと思うよ」
「えっ?」

 窓から見える空を見た。空はまだ水色だった。壁に掛かっている時計を見たら3時だった。まだ大丈夫だと思うけど……。

「ライコちゃんの言うとおりです。『ハクタイの森』は云わば天然の迷路です。木立が立ち並ぶ複雑な道は長く、地元の人でない限り1日では抜けられません。明日の早朝に出ることをお勧めします」

 モミさんは真剣な顔で言った。ドラマで医者が患者にドクターストップをかけるときの顔と同じ顔をしていた。

「は、はい……」

 うう…………方向音痴だからどんなに早くハクタイの森に行っても3日はかかるかも……。

「今晩もここに泊まってもらっても構いません。それよりお腹空いていませんか?今から食事を運びますね。ライコちゃんの分も持ってきますね」
「わ~い♪」

 モミさんとラッキーはお辞儀をして部屋を出て行った。ライコちゃんはニコニコしながら私に言った。 

「モミさんのクルミパンおいしいんだよ!さっきやさいスープ作ってたからそれももってくるかも」
「じゃあ期待してもいいわね」
「うん!」

 食べ物の話をして元気が出たけど問題は残ったままだった。わたし……どうすればハクタイの森を抜けられるかしら……?

 

『4月7日 木曜日

 

 3日間お世話になった民宿くろがねを出て私はハクタイシティに向かった……はずなんだけど207番道路からハクタイシティに向かうのは無理だった。砂の坂は急で足場が不安定だから村一番足が速いジュンでも登れなかった。イワークのラミアでも崖のてっぺんまで届かなかった。ジュンは坂の道をさっさと諦めて遠回りする道を選んだ。

 

 いったんコトブキシティに戻ろうとしたら野性のポニータを見かけた。ポケモンバトルで弱らせて捕まえようとしたけど良心が痛んだからクルルにスカウトさせちゃったwそれで仲間にするのに成功しちゃったからビックリ!クルルのスカウト方法がよかったのかしら?仲間にしたポニータはメスだった。立派な角を持つギャロップに育ってほしいという思いから「槍」を意味する「ランス」と名付けた。素早さと攻撃力が高いランスは戦力になると思うわ。

 

 ランスに乗ってクロガネゲートを抜けたらコトブキシティ付近で趣味の悪い服装の人たちと戦っているコウキくんとナナカマド博士を見かけた。苦戦しているようだったから助太刀したわ。コウキくんのアポロンヒコザル)とラミアのチームワークで見事謎の集団を撃破!ギンガ団と名乗った敵は意味不明の捨てゼリフを吐いて撤収した。…………なにがギンガ団よ。あんな白黒灰色の服を着た奴らなんて印刷機で十分よ!

 

 名残惜しそうなコウキくんと真面目な博士と別れてわたしは『荒れた抜け道』を抜けてソノオタウンについた。そのときは既に夕方だった。フラワーショップ『色とりどり』でくつろいでいたら女の子、ライコちゃんが泣きながら店に入ってきた。ライコちゃんからギンガ団が発電所を乗っ取り、彼女のパパが捕らわれの身になっていると聞いたすぐさま発電所に向かった。

 

 ライコちゃんを変装させ、姉妹のふりをしたわたしたちは事故を装って発電所に侵入した。ラミアに乗って疾走する私たちは突如ズバットに道を阻まれてしまう。わたしたちを止めたのはギンガ団幹部のマーズという少女だった。わたしより年上で性格の悪いマーズのブニャットに私は苦戦。キララ、ビッパー、ランス、ナポレオン、クルル、ラミア……全員倒されてしまった。最後に残ったのはライコちゃんに預けていたセニョールのみ。ブニャットの『不意打ち』に追い詰められたけどわたしは戦闘用アイテム『スピーダー』『ディフェンダー』『プラスパワー』を駆使してなんとか倒した。

 

 マーズとのポケモンバトルに勝ったけどギンガ団は腹いせにわたしを殴ろうとした。マーズと団員たちに囲まれ絶対絶命!大ピンチ!殴られることを覚悟してライコちゃんをかばったら窓が突然割れた。窓から出てきたのは野性のフワンテの大群!ライコちゃんの友だちのフワンテたちが助けにきてくれたの!フワンテはゴースト・飛行のタイプを持つポケモンだからきっとゴーストタイプ最強の技『シャドーボール』で窓を割ったのね。再会を喜ぶ発電所の親子。わたしは2人の邪魔をしないようにそっと発電所を出たけど外に出たとたん意識が遠くなった……。』

 

『4月8日 金曜日
 変な夢を見た。きれいでおしとやかな人がいけばなをしていてわたしは横でそれを見ていた。夢の中のわたしは自分に自信がないみたいだった。変ね。わたし、けっこう自分に自信があるのに。

 

 目が覚めたらわたしは病室にいた。たぶん起きたのは午後2時55分。ライコちゃんの話によると発電所を出たあと気絶したみたい。これで気絶したの何回目かしら?3回目かな。また周りの人とポケモンに迷惑かけちゃった。ライコちゃんと話していたらモミさんという大人っぽい女性がラッキーと一緒に病室に入ってきた。食事を運んできてくれたけどとってもおいしかったわ。無農薬の野菜で作られたスープと手作りのくるみパンは最高だったわ!

 

 そのあとモミさんと相談した結果明日『ハクタイの森』を案内してもらうことになった。『ハクタイの森』は天然の迷路だから地元の人じゃない限り1日で抜けられないらしいわ。ちょうどモミさんがハクタイシティにいる友だちに会いに行く予定だから便乗することにした。モミさんの友だちってハクタイシティのジムリーダーなんだって!すごいな~。どんな人だろう?ジムリーダーって変わった人が多いからなぁ……。

 

 今日は夕方までモミさんと一緒に『ハクタイの森』の入り口辺りを軽く散策した。ナナカマド博士の研究のため何匹かポケモンを捕獲した。森に生息しているのは芋虫ポケモンケムッソ、さなぎポケモンカラサリスマユルド、蝶々ポケモンアゲハント、毒蛾ポケモンドクケイルなど虫ポケモンが多かったわ。ほかにノーマルタイプのうさぎポケモンミミロルと丸ねずみポケモンビッパが出てきたわ。セニョールと同じスボミーも出てきたわ。

 

 そうそう。ビッパといえばわたしビッパーをパソコンでフタバタウンに転送したわ。2回も瀕死にさせちゃったんだもの。もともと数合わせで連れていただけだからランスと入れ替えた。今ごろフタバタウンにある牧場でコイキングコダックイシツブテズバットと仲良くしてると思う。博士に捕まえたポケモンフタバタウンに置く許可をもらってよかったわ。捕まえたポケモンをパソコンのボックスに放っておくだなんてかわいそうだもの。ママとテレビ電話で話したらフタバタウンのみんながよろこんでるって言ってた。ひさしぶりにママと話して元気が出たわ!

 

 現在わたしが捕獲したポケモンの数は23匹。図鑑で確認された数は31匹。……今のところ順調ね。夜にしか姿を現さないポケモンもいるから『ハクタイの森』でまた捕獲することになりそう。ギンガ団の持っていたスカンプーニャルマーってどこに生息してるんだろう?』

 

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 日付が変わって土曜日の9日になった。昨日はリハビリ代わりにモミさんと一緒にハクタイの森の入り口付近でポケモンを捕獲した。運動して疲れたおかげで昨夜はぐっすり眠ることができた。ライコちゃんからあとで聞いたけど昨日起きたとき筋肉痛がなかったのはモミさんがマッサージしてくれたおかげらしいの。なにからなにまでお世話になってはずかしいな。

 それにしても一昨日ライコちゃんが言ってた「あおくてくろいひと」が気になるわ……。助けてくれたお礼としてクレヨンで書かれた「あおくてくろいひと」の絵をもらったけど服装がクロガネ炭鉱ですれ違った男の人とそっくりだった。あの男の人…………どこかで会ったことがするんだけど誰だろう?なんだかなつかしい感じがする。

「ギンガ団ってひどいわね。ライコちゃんのお父さんを監禁したり発電所の電気を奪ったり……。発電所の内部がところどころ壊れているのもギンガ団のせいなんでしょ?いったいなにが目的なのかしら」

 モミさんに話題を振られてドキッとした。発電所を占拠したのはギンガ団だけど内部がところどころ壊れたのは私のせいだわ。廊下をギリギリ走れる大きさのイワークに乗って暴れながら進めばあちこち壊れて当然だった。しかも私のイワーク(ラミア)わんぱくだし……。クロガネ炭鉱でラミアの暴れっぷりは実証済みだった。

「さ、さあ……」

 わたしの顔、ひきつってないよね?後ろを歩いているナポレオンまでそわそわしてる。幸いなことにモミさんもラッキーもわたしたちの動揺に気づかなかった。

「まあ、悪人が考えることなんてわからないわよね」

 モミさんは1人で勝手に納得した。短い間とはいえ考え事をしながら歩いていたのに道に迷う様子は全くなかった。よっぽどハクタイの森を歩き慣れているんだわ。ゆったりしたワンピースにカーディガンという格好をしているけどモミさんはアウトドア派だと思う。野菜と花を自家栽培しているから仕事をしているとき以外はほとんど外で過ごしていると思う。その証拠にモミさんが履いているのはきれいなハイヒールではなく使い古したブーツ。わたしも見習わなきゃ……。 

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「そろそろお昼だし休憩する?」

 モミさんは普通の話し言葉で話しかけてきた。初めて会ったときは敬語で話しかけてきたけどモミさんに敬語なしで話すように頼んだからだ。わたしは引き続き敬語を使ってるけど。だって私のほうが年下だもん。退院したし医者のお手伝いと患者という関係はなくなったから代わりに友人関係を結んだわ。

「そうですね。モミさんの作ったサンドイッチ食べたいですし」

 ナポレオンはバスケットをちらちら見ていた。ナポレオンもお腹が空いたのね。わたしたちの会話を聞いたラッキーはポケットからシートを取り出した。2人と2匹でシートの角を取って地面に広げた。今か今かとバスケットを見ながら待つナポレオンをよそにモミさんと私はゆっくりブーツを脱いでおしぼりで手を拭いた。

「まるで遠足みたいですね!」
「本当だね」

 ハクタイの森を歩いて4時間。ハクタイシティへの道はまだ半分以上もある。いつなにが起こるかわからないし休息は大切よね!

 

 ハクタイの森に入って7時間くらい経った。ところどころ休憩を取りながら私たちはようやく森の奥までたどりついた。普通の人なら森の中で14時間以上彷徨うことになるけどモミさんは8時間で抜けられると言うからすごいわ。もっとも、ソノオタウンとハクタイシティに住んでいる人たちなら誰でも8時間以内で森を抜けられるらしいけど。

「あと1時間だからがんばりましょうね」

 モミさんはシートを畳みながら言った。これが森の中で取る最後の休憩だった。あとはひたすら出口を目指して歩くだけだわ。たまに襲い掛かってくる野生ポケモンを退けなきゃいけないけど。

「はい!」

 もうすぐハクタイシティに着くと考えると自然と声が明るくなった。緑が多いのはいいことだけど辺り一面の緑には飽きてきた。そろそろ人間が築いた文明の世界に戻りたい。ナポレオンも最初は道草をするくらい森の道を楽しんでいたけど今じゃ周りの植物に見向きもしない。再び歩き出そうとしたらやかましい鳴き声がわたしたちの耳を刺激した。

 

「カーーッ!カアアアッカアアーカアアアアーッ!!」

 

 耳が痛い。鳴き声に対する反応はそれぞれ違ったけど同じタイミングで声が出た。

「えっ!?」
「うっ」
「ポチャッ!?」
「ラキッ……?」

 これに似た鳴き声をテレビで聞いたことがある。カラスの声だ。普通のカラスより声がでかくて力強いのはポケモンだからだ。だけどその声は切羽詰っていて絶望していた。昔アキラから聞いたことがある。ジョウト地方に多く生息するカラス型のポケモンのことを。

ヤミカラスが助けを求めている……」
「えっ?」
「……行かなきゃ!」
「ポチャポチャッ!」
「ラキーッ!」

 モミさんが話についていけないけど説明してるヒマはない。ヤミカラスは今も叫んでいる。わたしは走りながらモミさんに説明することにした。

「待って……!ヤミカラスって何ポケモン?どうして助けを求めてるってわかったの?」

 さっきおやつを食べたばかりだから走るのが辛い。ドロドロになったクッキーが私たちの胃の中でひっくり返っていた。それでも走り続けなければならない。

ヤミカラスは暗闇ポケモン!もうすぐ夕方だけど夜行性のヤミカラスが鳴くには早すぎます!なにかあったに違いありません!」

 ラッキーとナポレオンは黙って先頭を走り続けた。ヤミカラスの言葉がわかるからなにがおこったか知ってるんだ。くわしいことはわからないけど助けを求めていることは一発でわかった。自分でもよくわからないけどわかった。あとはただの推測だった。

「カーッ!カーッ!」

 幸いなことに野生のポケモンは出てこなかった。それとも出てこないということ自体がおかしい……?いやな予感がする。

 

「カアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 ヤミカラスは今まで聞いた鳴き声の中で一番大きな声を出したと思ったら不気味なくらい静かになった。まさかやられた……?!

「ここが近道よっ!」

 モミさんとラッキーが木々の間を通り私とナポレオンはそれに続いた。獣道を抜けると見たくないものが目に入った。樹の根元に倒れているヤミカラスと目つきの悪いポケモンを従えたギンガ団がいた。

 

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 樹の根元に横たわるボロボロのヤミカラス。空中で飛び続ける2匹のズバット。男たちの抱える2つの大きめの黒い模様入りのタマゴ。そして樹の上にある空っぽの巣。それらを見て瞬時になにが起こったのか理解した。コンビニで必ず見かける黒・灰色・銀色の機械をほうふつさせる服を着た男たち…………間違いない。この2人はコトブキシティ発電所に現れた……。

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「印刷団!」
「えっ?」
「「違う!」」

 ボケ担当のわたしとモミさんに印刷団の2人は見事なツッコミを入れた。

「ギンガ団だギ・ン・ガ・団!」
コトブキシティでは世話になったな」

 ギンガ団の2人は歯を剥き出しにして笑った。あいかわらず醜い。ありとあらゆる面で。

「同じ服着て同じカツラなんて被ったら他の団員と区別がつかないわよ。そこの童顔で背が低めの下っ端さん!」
「はいっ?!」

 他の団員より背が低くて幼い顔をしている人は反応した。自分が背が低くて童顔だってことは自覚はしてはいるのね。

「あなたのことは『イン』って呼ぶわ」
「は、はあ?」
「そしてもう1人の目尻が濃いけどその他の顔のパーツが地味な人!」
「なんだとっ!」

 こちらもすぐ応答したってことは自分の容姿がその程度だってことは認めてるわね。

「あなたのことは『サツ』って呼ぶわ」
「……は?」

 そのとき倒れていたヤミカラスが鳴いた。

「カー……カー……」

 静寂が森を包む。しばらくなにか考えていたギンガ団は口をそろえて文句を言った。

「『イン』と『サツ』って印刷から来てるじゃねーか!」

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 顔をしかめて怒る2人の顔はもはや悪の下っ端ではなく売れない漫才芸人だった。顔もちょうどインがボケでサツがツッコミ担当という感じに分かれていた。今は2人ともツッコミする側に回ってるけど。モミさんはわたしとイン&サツのノリについていけずたじたじしていた。

「モミさん」
「んっ?」

 わたしはヤミカラスとイン&サツが持っているタマゴを横目で見た。

ヤミカラスをお願いします」
「……っ!?ええ!」

 わたしはナポレオンに合図した。

「ナポレオン、GO!」
「ポチャーーッ!」

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 さっきから戦いたくてうずうずしていたナポレオンは勢いよく『水鉄砲』をズバットたちに向かって放った。1匹のズバットに『水鉄砲』は直撃し、もう1匹のズバットは間一髪で避けた。インは慌てたけどサツには余裕があった。攻撃が当たったのはインのズバットのほうね!

「いきなりかよっ。『噛み付く』!」
「『タマゴ爆弾』!」

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 ヤミカラスを手当てしていたモミさんはラッキーに命令した。ラッキーが投げたタマゴは無傷のズバットに当たり爆発した。

「モミさん!わたしのことは気にしないでください!」
「でも……」
「『超音波』!」
「ナポレオン!『鳴き声』!」
「ポッチャア♪」

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 ズバットが口から奇怪な音波を出したけどナポレオンのかわいい鳴き声で相殺された。

ヤミカラスのことを第一に考えてください!」
「……はい!」

 わたしはモミさんに私の意図が伝わったことを祈りながらインとサツと向き合った。

「2対1とは舐められたものだな!」
「あなたたちごときわたし1人で十分ってことよ!」

 ズバットたちは交互に攻撃してきた。1匹が攻撃してる間もう1匹は待機してもう1匹が攻撃するとさっき攻撃した1匹は下がる。これを延々と繰り返す2匹のズバットの攻防は優れてる。

「『吸血』!」
「『はたく』で応戦!」

 血を吸おうとしたズバットをナポレオンははたいた。今のわたしの仕事はひたすら耐えること。ヤミカラスのために時間さえ稼げればそれでいい。 

「行きますか、サツ先輩?」
「おうよ、イン!」

 わたしがつけたあだ名は短時間で定着していた。インとサツは目配せするとズバットたちはナポレオンを中心に真逆の方向へ飛んだ。

「「ダブル『翼で打つ』!!」」

 避けられない……!

「『水遊び』!」

 ナポレオンは前後からズバットたちの片翼の翼で打たれた。ナポレオンは打たれる寸前に回転しながら水を噴出したけどズバットたちは濡れただけだった。

「ボチャッ……」

 ナポレオンは咳込んだ。背中とお腹を翼で打たれてしまった。水攻撃はもうできない。

「フハハハハ!馬鹿かお前は?この場で炎タイプの技を弱める『水遊び』を使うとは!」
「毒・飛行タイプのズバットが炎タイプの技なんて覚えるわけねーだろ!よっぽどあせったのか?」

 図鑑を確認した。どちらのズバットもHPは半分くらい残っていた。ナポレオンのHPは半分以下だったけど図鑑は鳴らなかった。ナポレオンはまだ戦えるけど……。

「戻って!ナポレオン!」

 赤い光線が息の上がったナポレオンを吸い込んだ。ナポレオンをボールに仕舞うと2番手のポケモンを出した。

「キララ!」
「コ、コリ~ン!」

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 控えめなキララはいつもの頼りない威嚇をした。キララの下手な威嚇を見てインとサツは吹きだした。

「ブハハハハ!なんだその弱っちい威嚇は?」
「お前頭イカれたのか?」
「頭がイカてるのはそんな格好したあなたたちのほうよ」

 わたしは右手でスナップをした。インドア派のわたしでも指をスナップして音を出すことはできる。ジュンにいざというときのための合図として叩き込まれたから。

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「コ~~……リィイインッ!!」

 キララの体から電気が放出された。さっきのスナップは『電気ショック』の合図だった。電気タイプが弱点でさらに体が濡れたズバットたちにはきつい一撃かも。笑いながら地面を転がっていたインとサツは命令するタイミングを完全に見失っていた。 

「「ギィーー!」」

 ズバットたちは見事感電し通常の『電気ショック』より痺れた。焼き鳥店で出されても食べたくない肉、2丁あがりぃ♪

「ぐぬわあああ!なんてことだ!」

 サツは髪をぐしゃぐしゃにした。インはサツを慰めるように言った。

「でもタマゴは我々の手に……ってあれ?」

 地面に置いてあった2つの黒い模様入りのタマゴは無地のタマゴと入れ替わっていた。1つのタマゴはモミさんの手に。もう1つのタマゴはコソコソ走るラッキーのポケットの中に入っていた。

 

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「ラッキー。ラッキー」

 そう。わたしの目的はギンガ団と戦いながらモミさんがヤミカラスのタマゴを奪還する時間を稼ぐことだった。思っていたより追い詰められたわたしは選手交代をしたわけだけどそのせいで戦いが早く終わってしまった。静まり返ったフィールドでみんなの目はただ1匹動くラッキーに向けられた。それに気づいてピタッと止まるラッキー。

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「…………ラキッ?」

 ラッキーとモミさんとわたしはギクッとした。大きく口を開けてラッキーを見つめることしかできないイン。そんなインとは対照的にサツのこめかみと拳は震えていた。

「クッ……クフッ」
「せ、先輩……?」

 わたしはキララに目配せした。

「そのラッキーを捕まえろおおおお!」

 

 サツは真っ赤な顔によせられるだけのしわをよせてラッキーを追いかけてきた。一応目力はあるほうだから余計恐い。キララはラッキーの前に出てサツをにらみつけた。

「コリ~ン……!」

 目を吊り上げて低い声でうなるキララ。でも怒りでぶち切れたサツの顔のほうがよほど恐く、キララは走るサツに吹っ飛ばされた。

「コリーーーン!」
「キララーーーーー!」

 キララは名前の通り空に輝く星になった。ほとんど沈みかけている太陽にキララの涙が星のようにきれいに反射した。

「ラッキー!走って!」
「クルル!キララを探して!」

 急いでクルルをボールから出すとキララの捜索を頼んだ。ラッキーはモミさんのもとへ急いだ。わたしは赤白のボールを取り出すとサツの顔面目がけて投げた。

「喰らえ!モンスターボール!」
「そんなもの効くかああああ!」

―めこっ。

 ボールは当たった。…………サツではなくインの顔に。運動音痴が災いして肝心のターゲットを外してしまった。

「スッボミ~♪」

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 発電所で活躍したセニョールがのん気にボールから出てきた。本当はランスやラミアを出したかったけど人間相手に火の馬や岩蛇を戦わす気にはなれなかった。

「『宿り木の種』!」
「ミー!」

 気絶したインを踏んだままセニョールは種を投げた。『宿り木の種』は相手のポケモンに成長の早いつるの種をからませ相手のHPを奪う技。種はサツの足に絡みついてサツの体力を吸い取った。これで少しは疲れて動きが鈍るわ。

「くそっ……こんなものっ!」

 サツは伸びるつるをやけになってちぎり、元凶の種をラッキーに投げた。

「かわすのよ!」

 ラッキーは右にそれて回避した。だけどつるの成長は思ってたよりが早い。『宿り木の種』はセニョールの体から作られたもの。動かせるのも止められるのも母体のセニョールだけ。

「セニョール!種を止めて!」

 指示したけど手遅れだった。セニョールが慌てて『宿り木の種』の成長を止めたけどラッキーの足がつるにひっかかってしまった。

「ラッキィイイ!」
「ラッキー!」

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 ラッキーのポケットからタマゴが飛んだ。モミさんは既にタマゴを持っているからキャッチできない。私は前へ出た。セニョールも駆け出した。全てがスローモーションで動くなかタマゴはゆっくりと落ちていった。あと数秒でわたしの手の中に収まる。そう確信したときサツがラッキーを踏み台にしてタマゴの落下を止めた。

「よっしゃーー!」
「ああっ!」
「ミーッ!」
「そんなっ!」

 ヤミカラスのタマゴは再びギンガ団の手にに渡ってしまった。わたしはタマゴを奪い返そうとサツの腕を引っぱった。

「返してっ!」
「うるせーっ!」

―ガッ。

「うっ……」 

 わたしは地面に倒れた。頭を殴られたんだ。頭が痛い…………思考が上手く働かない。

「ちっ。お前のせいでヒビが入っちまったじゃねーか」

 わたしの頭に当たったのはサツの持っていたタマゴだった。わたしを振りほどくときにぶつけたんだ。

「傷物はいらねーよ。そっちの女のタマゴをもらおうか!」

 放り出されたタマゴを間一髪で私は受け止めた。サツはポケットから小さな機械を取り出した。あれはなに?見たことがないわ。なにかの機械のパーツみたいなものにアンテナとボタンがついている……そんな形だった。

「ポチッとな!」

―ボムッ。

 小さな機械は爆発すると同時に嫌な音を発した。それは音というより電波だった。煙で視界が遮られたら聴力に頼るしかない。

「モミさん!セニョール!ラッキー!」
「きゃーーー!」
「モミさん!」

 煙を帽子で払った。煙が消えたときにはサツの姿も倒れているインもいなくなっていた。そしてモミさんが持っていたタマゴも……。

「わたしは大丈夫。でもタマゴがっ!」

 くっ……!

「ランス!ラミア!」

 わたしは未開封のボールを2個投げた。だけどボールは開かず地面に落ちた。えっ……?

「ボールが……開かない……」

 モミさんの足元にサツが持っていた機械が落ちていた。機械はもう煙も電波も出していない。…………やられた!あの機械は煙幕の効果だけでなくボールの機能を止める電波も発していたんだ! 

「うああああっ!」

―バキッ。 

 わたしは機械を思いっきり踏み潰した。だけどランスとラミアが入ったボールは無反応だった。

 

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