ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第28話 会合

[4月6日 水曜日

 

 昨夜はぐっすり眠れたわ。昨日の戦いで疲れていたのね。朝の準備体操をしていたらナポレオンが真似していたわ。本当にかわいいんだから^^ブランチを食べたあとアキラに稽古をつけてもらった。わざわざボックスから普段使わないポケモンを引き出してわたしのポケモンのレベルに合わせてくれたの!すっごく感謝したわ!でもキララがコイキング相手にビビッていたの。困ったわね。『はねる』は無害なのに……。セニョールはアキラのナゾノクサに遠距離で相手の体力を『すいとる』方法を教えてもらった。ナポレオンにはアキラの秘伝マシンで『波乗り』を覚えさせた。

 

 夕方はクロガネジムで初めてのジム戦に挑んだ。アキラの特訓でわたしは自信満々だった。短パン小僧と整備員相手に入れ替え制のバトルで順調に勝ち進みヒョウタさんの元へたどりついた。でも私はポケモンバトルをなめていた。経験地を平等に分けるためヒョウタさんとバトルするときもポケモンを入れ替えたらクルルはイシツブテに、ビッパーはイワークにやられてしまった。「ポケモンバトルを……ジムリーダーをなめてもらったら困るな。」その一言で目覚めた私は本気を出した。ナポレオンもそれに応えてくれてヒョウタさんの切り札、ズガイドスを見事『波乗り』で撃退!タイプ一致攻撃&特性『激流』が発動してなんとかズガイドスを倒せた。でもジムでの戦いで昨日のように砂塗れになっちゃった。ヒョウタさんの目の前で二度も汚れた姿をさらしてしまった私にヒョウタさんは優しい言葉をかけてくれた。「君は化石のように綺麗だよ。」……微妙;そんな言葉で喜ぶ女の子っているのかしら?

 

 夜は昨日と同じように私とアキラは作業員さんに囲まれながらご飯を食べた。「暴れイワークを捕獲しただけでなくヒョウタさんも倒すなんて只者じゃない!」ってほめられた。ヒョウタさんのお母さんでもある女将さんのシズルさんも「ヒョウタさんと結婚して民宿クロガネを継がない?」って勧誘されちゃった(笑)。そんな風に広間で賑やかにご飯を食べていたらジュンとコウキくんが現れたの!コウキくんが感動しながらわたしの元へ走ってきたけどアキラに殴られちゃった。以外だったわ……。アキラってあんな風に怒ることもあるのね。アキラいわく「ああいう馴れ馴れしいタイプは苦手だ」だって。あとから訊いたらコウキくんはナナカマド博士のためにアキラのカブトを受け取りに来たらしいわ。ジュンは冒険ノートを忘れたんだって。みんな大変ね。

 

 こうしてジュンとコウキくんも民宿クロガネに泊まることになった。シズルさんの計らいで温泉はわたしたちが入っている間は貸し切り状態にしてくれた。アキラと一緒に女湯に入って体を洗っていたらキララが悲鳴を上げた。慌ててタオルを巻いて振り向いたら煙から現れたのはジュンと『電気ショック』に感電したコウキくんと壊れた柵だった。今度は私が悲鳴を上げたわ!しかもしかも意外なことにコリンクが攻撃したのはコウキくんが女湯を覗いていたからなの!わたしのことが好きだから裸を見たいって言われても困るわ……。コウキくんにはガッカリ。ナポレオンも怒っていたわ。しかも事件はそれだけじゃないの。このあと国際警察のハンサムさんまで女湯に来ておどろいておけを投げちゃった。わるいことしたわ……。

 

 ハンサムさんが帰ったあとジュンとコウキくんはシズルさんから修理代を請求されちゃった。つぼとふすまを壊すだなんてジュンったら本当に破壊魔なんだから……。コウキくんは柵の修理代だけでなくつぼとふすまの修理代も払ってくれた。今日もメチャクチャだったわ。旅に出てから毎日こんな感じ。フタバタウンにいたときと比べて刺激的だけど疲れるわ。前途多難ね……。]

 

 わたしはシズルさんと仲居さんに見送られながら宿をあとにした。起きたときにはジュンもコウキくんもいなかった。ジュンは早起きだしコウキくんは博士と待ち合わせをしていた。アキラは鳥ポケモン―おそらくムックルの進化系―で移動してしまった。いいなぁ……わたしも早くクルルに『空を飛ぶ』を覚えさせたい。そうすれば行ったことのある町を自由に移動できるのに。
「ポチャー?」

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 ナポレオンはわたしの顔を覗いた。「この道で合っているの?」と言いたそうな顔で。
「ここで間違いないわ」

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 タウンマップを見ながら確認した。ここは207番道路。クロガネシティの北にある道。草むらより茶色い土が目立つ荒地と違い崖の向こうには緑が広がっていた。望遠鏡を覗いたらカラフルな木の実と緑色の葉っぱで包まれた木を見かけた。それより右側のほうには黄金色の木が見えた。甘い匂いが風に運ばれて私の鼻をくすぐる。
「いい匂い……」
「ポチャ~……」
 ほのかにシナモンみたいな香りがした。これは木の匂いかしら?それとも木の実?うかうかしてられないわ。木の実が他の人に取られるまえに崖を登らなくっちゃ!この崖を唯一登れそうな坂が見えたから私はそこへ向かった。でも坂の下には先客がいた。
「うおおおおおおおおおお!」
 そこには全力で坂の上を走っているけど全く進まないジュンとナエトルがいた。まるで下りのエスカレーターを上がろうとしているみたい。ナエトルにいたっては半分砂に埋もれている。

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 わたしはナエトルを救出するとジュンに話しかけた。
「なにしてるの?ジュン」
「おお!ヒカリか」
 ジュンは走るのをやめてこっちにきた。
「見てのとおり坂を登ろうとしてんだよ!だけどこの坂砂で出来てんだよな……。どんなに走っても進まねーんだ!」
 ジュンは説明し終わると地べたに座って靴を脱いだ。靴の中の砂を取り出すとふう、と息をついた。あのフタバタウン一早いジュンが走ってもダメってことはわたしがチャレンジする意味はないわね。わたしはクスッと笑った。
「バカね~。こういうときは頭を使うのよ。出ておいで!ラミア!」
 わたしは自信たっぷりにラミアの入ったボールを投げた。

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「イワーーッ!」
「うおおっ!でかっ!」
 わんぱくなラミアの頭にまたがり崖の上を目指した。崖の上の景色がどんどん見えてくる。
「行っけーー!ラミアー!」
 イワークの体調は8.8m。ギリギリいけるかも……!

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―ガクンッ。
「えっ!?」
 ラミアの体が揺れた。下を見たらラミアのしっぽが地面に立とうと踏んばっていた。いくら巨体のイワークとはいえ蛇は蛇。体は下に行くにつれ細くなっている。人間と違ってつま先で立つなんて器用なことはできない。……あともう少しだったのに!
「とどかねーのかー?」
 ジュンが大声で訊いた。
「とどか……なーい!」
「イワ~……」
 残念そうに下を向くラミアにありがとうと言ったあと地面を降ろすように頼んだ。うう……かっこつけておいて登れなかったからはずかしい……。
「ここからじゃムリみたいだな」
「そうみたいね」
 う~ん……イワークの進化系のハガネールだったら届いたかなぁ……?クルルは私を抱えて飛ぶには小さすぎるし……。
「しかたねーや。遠回りになるけどまたクロガネゲートを通るか!」
 立ち直りが早いジュンはナエトルをボールに戻すと走っていった。
「ヒカリ!お先!」
 レディーズ・ファーストを知らないジュンはさっさと行ってしまった。ポケモンは先に選ばせてくれたのにそれ以外の順番はゆずってくれないのね。わたしはラミアに気にしないでとなぐさめたあとボールに戻した。
「ポチャポチャ!」
 ナポレオンはブーツを引っぱった。ポケモンリーグは先着順。早い者勝ち。私たちも急がなきゃ。
「行こう!ナポレオン!」
「ポチャー!」
 ナポレオンと走り出した。うかうかしてるとジュンにチャンピオンの座を取られちゃう!

 

***

 

 207番道路からクロガネシティに戻ろうとしたら誰かが草を踏む音が聞こえた。気になって振り向くと草むらに馬の姿をしたポケモンがいた。クロテッドクリームのように黄色がかった体毛。揺れる炎のたてがみ。今にも王子さまが現れてまたがりそうな火の馬ポケモン

ポニータだわ!」

 まさかこんな木々の少ない荒地で見かけるなんて……!

「ヒヒ~ン」

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 ポニータはわたしたちの存在を気にせず草を食べ始めた。ナポレオンは黙ってポニータを見つめている。わたしはポニータの姿にうっとりした。なんてステキなポケモンだろう。こんなポケモンに乗って旅が出来たら最高だわ……!ラミアの入ったボールをバッグから取り出した。さっそく捕獲して仲間に……。

「はっ!?」
「ポチャ?」

 わたしはボールを持ったままフリーズした。わたし…………またポケモンを傷つけるつもりなの?博士の研究のためならともかく仲間にするポケモンを傷つけてまで捕獲する意味なんてあるのかしら?キララは私に向かって走ってくる姿を攻撃態勢と勘違いしてナポレオンがはたいてしまった。セニョールは自分から対戦を望んだ。ラミアは我を忘れて暴れていたから弱らせて捕獲するしかなかった。これらは正当防衛と言えるかもしれないけどクルルを仲間にするとき先に攻撃を仕掛けてきたの私だ。

「ポ~チャ?」

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 ナポレオンはポニータを指した。「行っちゃうよ」と言っている。わたしはあわててボールを入れ替えた。

「わ、わかったわよ!クルル」
「クルーッ♪」

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 クルルは陽気に飛び出してきた。あいかわらずフレンドリーだわ。

「クルル!あなたにはお願いがあるの!」
「クル?」

 クルルは羽ばたくのをやめて私の腕に止まった。

「あそこにいるポニータをスカウトしてほしいの!」
「クルッ?」

 スカウト……。我ながらバカだと思う。こんな変な指示をするトレーナーなんて聞いたことがない。クルルは私の変わった指示に首をかしげた。

「あなたは誰とでも仲良くなれる性格だわ。だからポニータに私の仲間になるように上手く説得してほしいの」

 自分でもわけがわからないままクルルにお願いした。こんなムチャクチャなお願いでもクルルは聞いてくれるかしら?

「クルッ!」

 クルルは右の翼を曲げた。これって敬礼してるの?クルルは低空飛行でなめらかに飛ぶとポニータのそばにある岩の上にちょこんと止まった。

「クルルル!クルーポッ!」
「ヒヒーン」

 ポニータは顔を上げた。戦意はないみたい。図鑑で確認したらポニータはメスだった。

「クルーックルックルッククルッポ!」
「ヒヒーンヒヒーン」

 何を話しているかはわからない。緊張しながら2匹のポケモンの様子をうかがった。

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「くルルル、クルックルルルル、クル?」
「ヒヒ~ン?」
「クルークルルックルックールル、ムックル!」
「ヒヒン、ヒヒヒヒ~ン」

 ポニータが私のほうを向いた。ナポレオンは誇らしそうにふっと笑った。ちょっと!クルルったら一体ポニータになんて言ったのよ?!2匹の会話はしばらく続き、クルルはポニータを連れて飛んできた。

「ヒヒーン」

 ポニータはわたしの前まで来るとひざを曲げてお辞儀をした。

「仲間になってくれるの?」
「ヒヒ~ン!」

 その優しい目に偽りはなかった。わたしはそっとポニータの顔をなでた。こんなに上品な女性だもの。キレイな名前をつけなくちゃ。

「よろしくね、ランス」
「ヒヒン?」
「あなたの名前よ」
「ヒヒーン♪」

 ランスはうれしそうに鳴いた。ポニータは進化するとユニコーンみたいに角が生える。その角は槍のように鋭く美しいと言われている。わたしはランスにボールを差し伸べた。ランスは恥じらうようにボールに口付けをして吸い込まれた。

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[No.090 ポニータ 火の馬ポケモン
高さ 1.0m 重さ 30.0kg
生まれたばかりでは立つのがやっと。だが走るごとに足腰は鍛えられて速度が増していく]

 

 図鑑のボタンを押してランスの詳しいデータを調べた。

 

[ランス♀
タイプ:炎
特性:貰い火
照れ屋な性格。逃げるのが速い。]

 

 ランスの入ったボールを見て微笑んだ。
「ありがとう、クルル」
「クル~♪」

 クルルをボールに戻し、私は再びクロガネシティと向き合った。

「今度こそ行きましょうか」
「ポーッチャ!」

 遠回りになるけどコトブキシティを経由してハクタイシティへ向かうわ!

 

***

 

クロガネゲートを難なく抜けて私たちは203番道路にいた。歩いて行こうとしたけどポニータのランスが私を乗せたがってたから背中に乗せてもらっちゃった。クロガロゲートで現れた野性のポケモンはナポレオンが相手をした。イシツブテズバットには『泡』で対応してコダックが現れたら『はたく』で攻撃。護衛つきで乗馬だなんてなんだか優雅ね。これで王子さまがいたら文句なしなのに…………な~んちゃって♪

 さすがにクロガネゲートでの戦闘は疲れたのか今ナポレオンは私の前に座っている。済ました顔で自分がランスに乗るのが当たり前のように堂々としていた。……それにしても本当にえらそうだな~。前世は皇帝ナポレオンかしら?だとしたらさらにそのまえはアレクサンドロス三世になるわね……。 

「ポチャ?」

 ナポレオンの前世を考えていたらナポレオンが鳴いた。ランスも足を止めた。どうしたのかしら?

「ヒヒーン」

 ランスは振り返り私に前方を見るようにうながした。だけど遠すぎてなにが起こっているかわからなかった。目は悪くないけど特別良いわけでもないのよね。ジュンは身体能力も五感も優れてるけど頭を犠牲にしてるから悲劇だわ。しかたなく私はバッグから双眼鏡を取り出した。

「そのまま進んで」

 再び歩き始めたランスの上から双眼鏡を目に当てた。ピントのずれた双眼鏡を調整しながらレンズを覗くと誰かがポケモンバトルをしているのが見えた。

「普通にバトルしてるだけじゃない」

 道端でバトルするならともかくコトブキシティの東口でバトルするのはマナー違反かしら?それ以外はトレーナー同士のなんの変哲もないバトルに見えるけど……。近づくにつれ戦っているポケモンと人の姿が見えるようになっていった。ポケモンたちは素早く動き回っていて見えにくいけど鳥ポケモンと人型のポケモンが戦ってるみたい。あの鎌に刃物がついたような翼のシルエットはズバットね。あの小柄の人型のポケモンは……あ、今止まった。ヒコザルだわ!ということはそのトレーナーは……。

「コウキくん!?」

 あの赤いベレー帽に黒いベストと青いジーンズ…………間違いない。コウキくんだわ!昨日わたしの裸を覗こうとしていたから複雑な気持ちになった。以前なら姿を見ただけでよろこんでいたけど今はよろこんでいいのかわるいのか……。一旦双眼鏡を外した。目を駆使したから疲れる。ランスは言われた通り前に進んでいる。

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 気持ちを切り替えてポケモンたちの周りを見たらナナカマド博士がコウキくんの隣りにいた。コウキくんも博士も険しい顔をしていた。ただごとじゃないみたい。コウキくんたちの反対側には緑色の髪の毛のトレーナーが2人いた。2人とも濃いグレーの箱からの銀色のロボットアームが突き出ているような姿をしている。印刷機を擬人化したような姿だけど一応人間……よね?あまりにもダサい服着てたから一瞬人間じゃないと思ったわ。

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「あっ!」

 空中のズバットの数が一気に増えた。あれは素早く動くことで自分の分身を作り出し、相手をかくらんさせる『影分身』だわ!


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 大量に飛び回るズバットを見てコウキくんのヒコザルアポロンは焦ったけどすぐに落ち着きを取り戻した。コウキくんが腕を上げるのが見えたからなにか言われたのね。ヒコザルは数秒間ズバットの作り出す影分身を見ていたけどついに動き出した。前方にまっすぐジャンプしてズバットを手の平の『火の粉』で攻撃した。2匹の周囲にいたズバットの影分身が次々と消えていく。本体を仕留めたのね!分身が1匹づつ消えるなかヒコザルの後ろにいる分身だけ消える様子がなかった。まさか……!

「ラミア!アポロンを守って!」

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 戦闘に参加しているズバットは1匹じゃない。2匹だ!私はラミアの入ったボールをできるだけ遠くへ投げた。体が大きくて胴体の長いイワークなら届くと判断したからだ。お願い……間に合って!

「イワーーー!」

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 不安をかき消すようにラミアは戦闘に乱入した。背後からアポロンを攻撃しようとしたズバットはラミアの硬い体にぶつかり弾かれた。

「コウキくーーん!博士ーー!」

 わたしは走るランスの首につかまりながら大声を上げた。右手はナポレオンが落ちないようにしっかり押さえている。

「ヒカリさん!」
「ヒカリ!」

 ここまで来れば声が聞こえる。双眼鏡ももう必要ない。

「ちっ。援軍か」
「まだバトルは終わってないぜ」

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 ズバットは2匹ともまだ飛んでいた。アポロンに攻撃されたズバットはフラフラしているけどまだ瀕死じゃない。擬人化印刷機たちはまだ余裕があった。でも彼らのセリフは何回耳を掃除してもザコのセリフにしか聞こえない。

「足元がお留守ですよ」
「なにっ!?」

 コウキくんがスマートに言った直後フラフラのズバットは下からアポロンの『ひっかく』を喰らった。ズバットは叫ぶ暇もなかった。 

「背中もね♪」
「なっ!?」

 わたしはウインクした。もう1匹のズバットのトレーナーが声を上げたときには手遅れだった。ラミアが地面に落ちてた石をズバットに向かって思いっきり尻尾で蹴ったから。『岩落とし』は見事ズバットに命中した。ほぼ体力が満タンなズバットでも弱点の岩タイプの攻撃を受けたらひとたまりもない。ズバットはツッコミに使われるタライみたいにすとんと落ちた。 

「ちっ」

 2人の人型印刷機ズバットをそれぞれのボールに戻した。これで追い出せるわね。

「仕方ない。ここは引き上げてやろう」
「なぜならギンガ団は皆に優しいからな!」

 やられたのになぜか上から目線で捨てゼリフを吐いたあと、銀色の珍獣はロボット歩きでそそくさと去った。ザコ敵がいなくなったのを確認すると私もラミアとランスをボールにしまった。ふう。あいつらはなんだったのかしら……。

「ヒカリさん!」

 コウキくんの声を聞いてビクッとした。非常事態だったからつい昨夜の出来事を忘れて戦闘に参加しちゃったけど…………コウキくんとどう接すればいいかわからなかった。

「昨日はほんっっとうにごめんなさい!もう二度とあんなことはしません!ヒカリさんが望まない限りは!」

 コウキくんはいつものように情熱的に振舞っていた。…………私がコウキくんに自分の入浴している姿を覗いてほしいと望む日なんか来るのかしら?

「あ……うん。あのことは気にしないで」
「ああ……ヒカリさんはフローラのように優しいのですね!愚かなボクを許してくれただけでなく窮地に救いの手を差し伸べてくれるだなんて!あなたがいなければボクは今ごろ上半身は山羊、下半身は魚の姿になっていたでしょう。まるでパニックの語源となったパーンのように!」

 これもギリシャ神話?もっとわかりやすい例えはないかしら。

「もしかしてボクのことが好きだからボクを追ってコトブキシティに来てくれたのですか?あんなことをしたのに……。やっぱりボクたちが出会うべきして出会ったんですよ!運命です!」
「そ、そうね……」

 あのときコウキくんに助けてもらわなかったら死んでたかも。運命と言えば運命ね。

「ああ……ヒカリさんと別れて一夜しか経ってないのにとても恋しい……ヒカリさん。大好きです!一万年と二千年前から愛しています!八千年過ぎた頃からもっと恋しくなりました!!」

 どこかで聞いたことがあるようなセリフね…………。完全に思い出す前にコウキくんの顔に水がかかった。

「ぶはっ」
「ポチャー!!」

 自分の存在を忘れられたのが気に入らなかったのか、それともただ単にコウキくんがうざかったのか。ナポレオンは『水鉄砲』を放った。コウキくんにはわるいけど会話がさえぎられたのでほっとした。

「ウォッホン!」

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 今度はナナカマド博士が自己主張をした。やだ……すっかり忘れてたわ。

「助けてくれてありがとう、ヒカリ。おかげで助かった。それにしてもあいつらはなんだったのだろう。そもそもあのおかしな格好はなんなのだ」
「ダサいですよね。あれがかっこいいと思っているのでしょうか?」
「時代遅れですね。80年代を意識していたんじゃないですか」
「…………おまえたちがオシャレなのはわかったから本題に入ろう。あの困った連中はギンガ団とか言っていたが……ポケモンが進化するときに出るエネルギーを使う方法を教えろと抜かしおった」

 えー?なにそれ!確かにポケモンが進化するときなんらかのエネルギーが出ているかもしれないけどそれを利用するなんて無茶苦茶よ。自然の力はそのままにしておくべきだわ。

「博士の研究でポケモンの90%は進化に関係していると判明しました。そのせいか博士の研究成果を力ずくで奪おうとしたんです」

 そっか。それで争いになったんだ。

「だがおまえたちのおかげで何も起こらずに済んだ。感謝しているぞ」
「いえ、当然のことをしただけです」
「ポッチャー!」

 ナポレオンは胸を張った。でもナポレオンは何もしてないわよ。ナポレオンから目を放したらコウキくんが目の前にいた。わたしの手を両手で包むとコウキくんはいつものように熱弁した。

「ヒカリさん!助けてくれたお礼に昼食に招待してもよろしいでしょうか?このまえはフランス料理だったので今回はイタリア料理なんていかがですか?もちろん前回と劣らない高級レストランですよ!そこらにある安いイタリアンレストランと違ってイタリアから直接取り寄せた材料とわたし竈を使って焼いた本場のピザを食べられます!」

 コウキくんはうきうきしながら私を昼食に誘った。確かにもうお昼だしお腹が空いた。それに本格的なピザを食べられるなんて素敵!思っていたことが顔に出たのかコウキくんはますます調子に乗った。

「母が行き着けの高級イタリアンレストランでチケットをもらったんです。よかったら2人っきりで行きま……」
「ウォッホン!」

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 博士が本日二度目の咳をした。まさか博士もレストランについて行くつもりなのかしら?

「仕事があるだろう、コウキ。その1、わたしの荷物をもつこと。その2、わたしを研究所まで無事に護衛すること。その3、研究所で書類の整理を手伝うこと。君の役目はまだ終わってないぞ」
「そんな~博士~」

 コウキくんは手を離し今度は博士の前で両手を合わせた。ナポレオンはその様子を鼻で笑っていた。

「ギンガ団のせいで予定が狂った。早く遅れを取り戻すぞ」
「いいじゃないですか~。あんなことがあったんですからちょっとくらい休んでも。お昼はどうするんですか?」
「研究所に着いたあと出前を取る」
「今ここで食べたほうが早いですよ~。博士も特別に同席してもいいですからここは3人でイタリアンを……」
「わたしは和食派だ」
「たまにはいいじゃないですか~。ヒカリさんとゆっくり話しませんか?博士はまだヒカリさんとゆっくり話したことないじゃないですか~」
「君はわたしの研究よりヒカリを優先するのか」

 コウキくんがあれこれ提案するけど博士の気が変わる様子はない。もともと頑固そうだし。

「さあ、行くぞ」
「ヒカリさ~~ん!」

 博士はコウキくんのマフラーを掴んで出発をうながした。首が絞まっていてもなおコウキくんは抵抗していた。

「ヒガリざん……これ……」

 コウキくんは苦しみながら手を伸ばしてわたしにチケットとハートの箱を渡した。

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「せめでヒガリざんだけでも食べに行っでぐださい……ハートのはごはアクセザリーケーズです。あげまず……」
「あ、ありがとう……」

 コウキくん自分で自分の首を絞めている……大丈夫かしら?

「ほら。行くぞ」

 コウキくんは咳込みながら博士のあとをついていった。ちょっとかわいそう。

「チャッ」

 ナポレオンは舌打ちした。もしかしてコウキくんがこのまま窒息死するのを望んでいたのかもしれない。ナポレオン……恐ろしい子……!

「ヒカリさ~~~ん!一万年と二千年後も愛してますからね~~!!ずっと待っていま~~す!」

 コウキくんの愛の叫びが聞こえた。まるで発情期のオスねこみたい。コウキくんに対する印象は若干下がったけど彼氏候補からは外さないでおこうかな。この高級イタリアレストランのお食事券に免じて。

「ご飯食べに行こっか、ナポレオン」
「ポチャ~♪」

 ナポレオンはさっきの腹黒い顔とは打って変わってかわいい顔をした。ツンデレだけど食べ物には弱いのね、この子。

「今日の昼ご飯は豪華よ~♪」

 わたしたちは浮かれながらコトブキスカイビルに向かった。

 

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