[4月5日 火曜日
ついに最初のポケモンジムがある町、クロガネシティに着いたわ。クロガネゲートで道を教えてくれた山男さんに感謝しなきゃ!『岩砕き』の秘伝マシンもくれたし今度お礼になにかあげようっと。
ジムの場所を確認しに行ったらジュンに会った。朝一にジムリーダーと戦って勝ったのに、ジムリーダーが留守だってことをわたしに伝えるためにわざわざ待っててくれたの!いつも空気読めないのにたまに気がきくからジュンってふしぎ。とにかく昨日わたせなかった誕生日プレゼントを渡せてよかったわ。
ジムリーダーは炭鉱にいるからそこに行けって勧められたけど断った。だって服がよごれるかもしれなもん。かわりに炭鉱博物館に行ったわ。そしたらなんと!そこにアキラがいたの!アキラよ!アキラ!わたしの初恋の人!もうほっっんとにうれしくてアキラの胸に飛び込んじゃった♡でもそしたら胸がむにゅ~ってして………実はアキラ、女の子だったの!!
ショックで気絶して起きたらわたしは医務室にいた。こうして初恋に破れたけどかえってすっきりしちゃった。途中でジュンが医務室に入ってきてアキラといざこざがあったけどジュンはあっさり引いちゃった。だからアキラと2人でお昼ご飯を食べた。アキラのヒコザルは進化して最終進化形態になってたけどすごかった!しかも色違いなんだって!ふつうのヒコザルはコウキくんのヒコザルと同じ色なんだって。ナポレオンはどんなポケモンに進化するんだろう?
ジムリーダーに挨拶しようと思って炭鉱に入ったら変わった帽子を被った青年とすれちがった。なぜだかよくわからなかったけどその人が気になってしかたがなかった。でもそのあととんでもないことが起こったの!大量の野生のイシツブテとズバットと出くわしたの!なんとか退けたけど野性のポケモンたちの様子がおかしい。
炭鉱の先を進んだら原因がわかった。野生のイワークが大暴れしていたの!作業員が3人がかりでポケモンバトルしていたけど敵わなかった。このままじゃ炭鉱が崩れる……!わたしは一か八かイワーク捕獲作戦を実行した。手持ちの5匹を駆使してなんとか捕獲したけどボールを5個も使っちゃった。
そんなとき、ふらついたわたしを助けてくれたのはなんとジムリーダーのヒョウタさん!岩ポケモン使いのヒョウタさんは知的で肉体労働も苦じゃないイケメンだったの!四角いフレームのメガネがポイント!炭鉱を救ってくれたお礼として宿までお姫さま抱っこで運ばれちゃった♡宿に行く間何人かに見られれて冷やかされちゃったwはずかしいけどうれしーーー!!(≧∀≦)
宿に着いたらみんなに歓迎された。アキラはヒョウタさんに抱えられたわたしを見て驚いてたけど。温泉に入って医者にわたしとポケモンを診てもらったあと宴会が開かれちゃった。みんなの気持ちはうれしかったけどわたしとポケモンたちは疲れてたから食べたらすぐ寝ちゃった。アキラが酔った作業員の人たちに囲まれていたけど大丈夫かしら?]
「……ふう」
持っていたエンピツを放した。こんなものかな。昨夜はすぐ寝たから日記を書き忘れちゃった。日付はもう6日だけど忘れないうちに昨日の日記を書くことにした。そして今それがこうして終わったとこ。
「ふあ~」
体を伸ばした。昨日は運動したから体が痛い。筋肉痛かなぁ……。体の筋肉をほぐすためにストレッチでもしようかな。ちょうど髪の毛一つにまとめてあるし。
「1、2、3、4……」
腰に手を置きながらもう片方の腕を右に伸ばした。今度はその反対。
「……」
同じ動作をもう一度繰り返した。
「1、2、3、4。5、6、7、8……ん?」
「ポチャ」
気がついたらナポレオンもストレッチをしていた。他のポケモンはまだボールの中で眠っている。短い腕でよくがんばるなぁ……かわいい♡
「次は足をストレッチするわよ!」
「ポチャ!」
ストレッチが終わったらみんなを起こそう。今日の夕方はヒョウタさんとのジム戦がある。せっかくだからアキラに稽古つけてもらおっと。
***
「あー……あいつはやめたほうがいい」
わたしの問いに対する言葉が開口一番それだった。わたしはただヒョウタさんはどんな人か訊いただけなのに。わたしたちは今、宿の広間でアキラと一緒に昼ごはんを食べている。
「エセ紳士のコウキよりマシだがヒョウタは化石オタクだからな…」
エセ紳士って……コウキくんって人気者なのにジュンやアキラには不評だなぁ……。
「おまえはすぐ寝たから知らないだろうけど、昨夜ヒョウタは一晩中いかに化石ポケモンが素晴らしいか延々と話してたんだぞ。あれは地獄だった。おかげで睡眠不足に……」
「そうじゃなくてヒョウタさんが何タイプのポケモンを使うとか、どんな戦略を使ってくるとかそういうことを知りたいの!」
「昨日ヒョウタにお姫さまだっこされて浮かれてたのは私の見間違いか?」
ギクッ。ま、まあ、たしかにヒョウタさんについて訊いたときポケモンバトル以外のことも教えてくれたらな~と下心持ってたけど……。
「ゴメンナサイ」
「素直でよろしい」
わたしは天ぷらをおはしでつかんだ。そのまま口に運ぼうとしたら悲しいオーラを感じた。ナポレオンだわ!ナポレオンはまぶたをつりあげながらも困ったような顔で天ぷらを見つめていた。今私が食べようとしているのはエビの天ぷら――通称エビ天。ナポレオンは今か今かといずれくる絶望を覚悟しながら私とエビ天を見ている。……はぁ。しかたないわね。
「……わたしエビ飽きたかも。ナポレオン食べてくれる?」
不自然じゃないよね?自然な流れでエビ天あげないとナポレオンのプライドがキズついちゃう。
「ポチャー♪」
あ、よろこんだわ。
「……チャッ!?」
あ、我にかえった。
「ポチャチャポチャチャチャ~。ポッ、ポポチャ、ポチャチャチャチャ、ポチャ、ポッッチャマ!」
ナポレオンはすました様子でエビ天を手に取ったけど顔がニヤけている。え~っと……「しょうがないわね~。べ、べつにエビ天が好きなわけじゃないんだからね!」で合ってるかな?ナポレオンはオスだけどどうしても脳内変換するとき女言葉になっちゃうのよね。
「ありがと~、ナポレオン。わたし少食だから食べきれなくって…」
「ポチャチャチャ、ポッチャ!」
……たぶん「また食べきれないときは言ってよね!」って言ってるんだと思う。そんなふうにナポレオンとやりとりしていると今までだまっていたアキラが口を開いた。
「…おまえたち仲がいいな」
「まだまだよ」
「ポ、ポチャー!」
ツンデレってお世辞に弱いのね。そう思いながらわたしはオレンジジュースを飲み干した。
***
お昼を食べ終わったあと、わたしとアキラとナポレオンは宿の裏庭に出た。炭鉱での活躍のおかげで宿の人はわたしに寛大だった。クロガネシティに来たときはいつでもタダで泊まっていいって言われたし今日は裏庭まで貸してくれた。ご飯を食べるときはクルル、キララ、ビッパー、セニョールだけでなく炭鉱で騒ぎを起こしたラミアさえもきちんと世話してくれたし。温泉に入るとき背中を流してほしいのなら言ってくださいってそこまでサービスしなくても……。
アキラはふぅ、と息を吐くと私に面と向かって言った。
「宿で歓迎されるのはいいが油断するなよ。いくら炭鉱を救ったからといってヒョウタは手加減しない。」
「うん!」
「ポチャー!」
むしろ手加減されたら怒るわ。ナポレオンだってそんなこと望んでないし。
「手持ちのポケモンは?」
アキラは曇った表情で訊ねた。む、信用されてない。
「ムックル、コリンク、ビッパ、スボミー。あと昨日つかまえたばっかりのイワーク!」
「ポチャ!?」
ナポレオンは目を丸くした。わざと鼻歌を歌ってアピールしはじめた。目のまえにいるから言う必要はないと思ったけど一応紹介しようかしら?
「そしてわたしの切り札ナポレオン!」
「チャチャッ!?」
自分の名前に反応してナポレオンは私を見た。
「ポチャチャ~」
ナポレオンは頭に手をあてて鳴いた。照れてる照れてる。うふふっ。
「これからもこのメンバーで旅を続けるのか?」
「ううん。これから決めていくつもり。旅を続けるうちに少しづつメンバーを入れ替えるかも」
今のところナポレオンとセニョールとラミアを育てることは確実。キララとクルルもしばらくは育てるつもり。ビッパーは数合わせ。ビッパーにはわるいけど近いうちに手持ちから外すことになりそう。
「ヒョウタは岩ポケモンの使い手だ。水タイプのナポレオンと草タイプのスボミーは使えるな」
「あ、うん!この2匹は最後まで育てるつもり!」
「そうか。好都合だな。とりあえずこの2匹を重点的に鍛えるか」
アキラの言うとおりだわ。多くの岩ポケモンは地面タイプも持っているからキララの電気攻撃は全然効かない。ノーマルタイプの『体当たり』攻撃をしてもは岩タイプにはほとんど効かない。岩タイプの技を使っても効果はいまひとつ。ラミアは岩・地面タイプのポケモンだけど今のところ攻撃技は『体当たり』『しめつける』『岩落とし』しか使えない。地面タイプの攻撃技があれば有利だけど自力で覚えそうにない。
「クルル、キララ、ビッパー、ラミアはジム戦でちょっと顔を出すだけ。」
「ポッチャ」
ナポレオンも同意した。この4匹に今回の戦いは不利だということは明らかだった。だけどボールの中の4匹は不満そうだった。ボールを揺らして私に不満をもらしている。その中でも特にわんぱくなラミアの入ったボールの揺れが激しかった。きっとつかまえたばかりだから私に戦えるって照明したいのね。
「そんな悲しい顔しないで。ジム戦には出さないけどレベル10まで鍛えてあげるから」
この一言でボールの揺れは収まった。わたしはセニョールのボールだけ取り出すと開閉スイッチを押した。
「ミ~♪」
セニョールは元気いっぱいに飛び出すとつぼみのついた右手で敬礼した。
「ミー!」
元気いっぱい、やる気充分!よ~し……。
「ナポレオン!セニョール!あなたたちはレベル15まで鍛えるから覚悟してね!」
「ポッチャアッ!」
「ミーー!」
ナポレオンはガッツポーズを、セニョールは本日二度目になる敬礼をした。そんなわたしたちをアキラは感心しながら見ていた。
「ヒカリはバランスよく鍛えるタイプなのか」
「うん!やっぱり手持ちのポケモンのレベルはそろわなくっちゃ!」
なんでもかんでもきっちりそろってないと落ち着かない。みんなをバランスよく鍛えてジム戦を余裕で勝てるようにしなくっちゃ!……あ、そうだ!
「アキラ!わたし、必勝法を思いついたわ!」
「なにっ!?」
アキラはすばやくまばたきした。少しおどろいたみたい。
「でもそれにはど~してもアキラの助けが必要なの。手伝ってくれる?」
わたしは人差し指をあごにあててイタズラっぽく笑った。アキラがわたしに対してかなり甘いことはなんとなくわかっていた。わたしの必勝法はちょっとずるいかもしれないけどポケモン協会のルールに一つも反していない。カンニングをするつもりはないし極めて合法だ。アキラは肩をゆっくり落とした。
「……わかったよ。そのかわり条件がある」
「いいわよ。なに?」
アキラは気難しいけど若干照れが入った声で言った。
「わたしがおまえに甘いこと……誰にも言うなよ」
「もちろん!」
これでわたしの勝利は確実!……ヒョウタさん。わるいけどこの勝負、勝たせてもらうわ!