お昼ごはんを食べ終わり、わたしは炭鉱へ向かっていた。ジュンのおせっかいでヒョウタさんに迷惑かけちゃったかもしれないし、挨拶くらいしなきゃ。アキラとは店を出たあと別れた。研究所で受け取ったポケモン、カブトを鍛えると言っていた。
[No.140 カブト 甲羅ポケモン
高さ0.5m 重さ11.5kg
3億年前の砂浜で暮らしていたと考えられる。硬い殻が身を守る。]
アキラの図鑑にはそう書いてあった。背中は丈夫な茶色の甲羅で覆われていて、4本の爪が正面にあった。黒いボディに爛々(らんらん)と光る赤い目はこわいようなきもかわいいような…。背中にも見えにくいけど目があるのよね。やっぱりポケモンって不思議な生きもの。
アキラがボールからカブトを出したとき、わたしはそのポケモンがすぐカブトだとわかった。まだアキラはなにも言っていなかったのに。「よく知っているな」と、ほめるアキラに即座に答えた。「レベル40でカブトプスに進化するのよ!」……そのときはなんとも思わなかったけどよく考えたらおかしい。なんでわたし、カブトのこと知ってるんだろう?
クロガネゲートでもイシツブテ、コダック、ズバットを見たとき一目でそのポケモンたちがどういったポケモンたちかわかった。あの3匹はアキラからもらったジョウト地方の教科書に載ってた気がする。姿と名前は知っていたけどなんでその3匹の特性と使う技も知ってたんだろう?教科書にカブトのこと書いてあったっけ?なんなのこのデジャヴ……?
「ポチャー!」
「はっ!?」
ナポレオンの一声で現実に引き戻された。気がついたら炭鉱の作業場まで来ていた。すぐ近くで石炭を運ぶブルドーザーやレーンが音を立てていたのに考え事をしていて気づかなかった。小柄な人型の怪力ポケモン、ワンリキーが作業員に混じってせっせと石炭を運んでいる。
「もしかして案内してくれたの?」
「……」
ナポレオンは顔を背けた。もしナポレオンがいなかったらわたしは特性[方向音痴]を発揮して迷子になっていた。考え事をしていて迷子になったことなんてフタバタウンではいくらでもあった。そのせいで昨日もコトブキシティから外れて迷子になったし。
「ありがとう、ナポレオン」
「……チャッ」
お礼を言ってもナポレオンは不機嫌のままだった。アキラのゴウカザル―進化したヒコザルの姿―と対面してからナポレオンはずっと不機嫌だ。
成長したヒコザルと再会できてうれしかったわたしはアキラにしたようにゴウカザルを抱きしめた。そしたらナポレオンがムキになってゴウカザルに勝負を挑んだ。でも2回も進化したうえにレベルが50も上のゴウカザルにナポレオンが敵うはずがなく、軽くあしらわれてしまった。
ナポレオンが『泡』を吐いてもゴウカザルは平手で簡単にかき消した。怒って『はたく』を繰り出そうとしたナポレオンはゴウカザルのしっぽによって派手に転んでしまった。プライドの高いポケモンとして知られているポッチャマのナポレオンにとってこれは屈辱だった。妬かせてしまったわたしもわるいけど、ナポレオンも自業自得な気がする。
「機嫌直してよ~、ナポレオン。明日はヒョウタさんと戦うのよ。ヒョウタさんは岩タイプのポケモンを使うからナポレオン大活躍するわよ。ね?」
「ポチャ~」
ナポレオンは目を細めたままだった。今ナポレオンに必要なのは怒りを発散することだ。この怒りを野生のポケモンとのバトル、あるいは明日のジム戦にぶつければ勝利は確実だ思うけど……。
「おや、お嬢さんがこんなところになんのようかい?」
比較的若い作業員の人に話しかけられた。他の作業員と同じように黄色いヘルメットを被って灰色の作業着を着ている。
「ジム戦の希望者です!ヒョウタさんに挨拶しにきたのですが……」
「ああ!もしかしてあの金髪の坊やの知り合い?」
「はい」
作業員の人は納得した顔をした。
「ジム戦は明日ですが、迷惑でなければ今から挨拶したいのですが…」
「いいよ。案内してあげる」
作業員のお兄さんはシャベルを担いで手招きした。
「炭鉱の中は野生のポケモンが出てくることがあるから気をつけてね」
「はい!」
「ポチャアッ!」
ナポレオンも勇ましく返事をした。野生のポケモンに八つ当たりする気まんまんだった。
軽く見学も兼ねた案内をしてもらいながらわたしたちはクロガネ炭鉱に入った。ところどころにドラム缶と木製の箱が置いてあったり、壁が木の板で打ちつけられていた。地面は階段のように削り取られている。照明などの設備が整っているとはいえポケモンの住む洞くつとあまり変わらない。
「照明ついてても暗いから足元に気をつけてね」
「はい」
たしかに炭鉱の中は暗かった。照明は申し訳ない程度についているだけだし1番頼れるのは作業員のヘルメットについているライトだ。まだ炭鉱の暗さに慣れてない私は作業員のお兄さんに頼るしかない。それに悲しいけどわたし、方向音痴なのよね。こんなところでお兄さんとはぐれたら昨日以上に心細くなるわ……。
「それにしてもあの金髪の坊や、せっかちだね~。あの坊やの知り合いが来るというからどんな女の子だと思ったら上品なお嬢さんがきたから驚いたよ~」
「うふふ。ありがとうございます」
ジュンと比較するとどうしてもほめられてしまう。他人から悪口を言われたことなんて一度もなかった。だけど、今朝見た夢はいったい……?
「ポチャッ!」
「痛っ!」
ナポレオンに軽くはたかれた。いけない。また考えことに夢中になるところだった。暗いところだし気をつけないと……。顔を上げると2人の男の人がわたしたちとは反対の方向、つまり出入り口に向かっていた。
「次はいつここに来るんですか?」
「さあ、いつだろうね。気が向いたら」
―ドクン。
聞いたことのある声がした。まだ暗さに慣れてなかったからよく見えなかったけど、帽子を被った青年が中年の作業員と話していた。中年の作業員と私を案内している若い作業員は軽くお辞儀をした。私は青年の人が気になってしかたがなかった。青年の人はフェルト帽にスーツを着ているようないでたちだった。
―ドクン。
「え……?」
自分でも聞き取れないくらいかすかな声が漏れた。つばの先っぽがギザギザになっている特徴のある帽子。あの帽子……あの服装……どこかで見たことがある。足を動かしつつ私はその人を目で追った。顔が見たいけど暗さと帽子のせいで見えない。
―ドクン。
「…」
「…」
すれちがいざまに、その人と目が合った気がした。でも真実は闇の中に沈んだ。
「あの……さっきの人は?」
作業員のお兄さんは私を見た。ライトが目に当たってまぶしい。
「さあ~。ぼくはこの炭鉱で働き始めてまだ2年だからね~。先輩と親しそうに話してたしヒョウタさんかトウガンさんの知り合いかな~」
「そうですか……」
なんでこんなにあの人が気になるんだろう。この胸騒ぎはなに?
「ここ曲がるよ~……ってうわっ!」
お兄さんがしゃべった矢先に曲がり角からポケモンが出てきた。目と口を描いたような大きな石に2本の腕が生えている。岩石ポケモン、イシツブテだ。ナポレオンはすぐさままえへ出た。
「『泡』よ!」
「ポ~チャッ!」
待ってましたと言わんばかりにナポレオンは息を吸って『泡』を吐き出した。泡は素早くイシツブテに当たる。
「イッシ~!!」
図鑑に表示されるイシツブテの体力ゲージが一気に減った。岩・地面タイプであるイシツブテにとって水タイプの攻撃は4倍ダメージだ。それに水タイプのナポレオンが水タイプの技を使ったことでさらに1.5倍のダメージが追加される。それにレベルもこちらのほうが若干勝っている。私の予想通り、野生のイシツブテは一発でやられた。
「おお~!すごいね、お譲ちゃん。これならヒョウタさんといい勝負ができそうだね」
「はい!」
自信満々に答えた。ナポレオンは戦い足りないのかジャブを繰り出している。こっちもやる気満々ね。
「グオーーーッ!」
「「!?」」
「ポチャ!?」
―ゴゴゴゴゴ……。
うめき声とともにイヤな音がした。地響きで天上からパラパラと砂が降ってくる。不安になってお兄さんを見た。お兄さんもナポレオンと同じように険しい顔をしている。
「…なんだか嫌な予感がするね。いったん外に出ようか」
「はい」
―ゴゴゴゴゴゴゴ……。
音が大きくなった。お兄さんがUターンしたとたん、大量のイシツブテとズバットが押し寄せてきた。
「お兄さん!ポケモン持ってるなら出して!」
「えっ!?」
「『水遊び』!」
ナポレオンは地面にピタッとくっついて水を吐いた。地面を跳んで移動していたイシツブテたちは苦手な水に触れて転びはじめた。でもこうもりポケモンのズバットは空を飛んでいるから当たらない。わたしはポケモン入りのボールを4個投げた。光とともにムックルのクルル、コリンクのキララ、スボミーのセニョールが現れる。
「クルル!ズバットたちを『翼で打つ』!キララは『電気ショック』!セニョールはナポレオンを手伝って!」
「クッルー!」
「コリ~ン!」
「ミー!」
ナポレオンはすでにイシツブテたちと交戦していた。ナポレオンの『泡』がイシツブテにぶつかってはじける音が聞こえる。セニョールはイシツブテたちに近づき『すいとる』をかました。セニョールは体力をすいとって上機嫌だったけどイシツブテたちはヘロヘロだった。
クルルは命令どおり数匹のズバットに向かい翼をぶつけた。がんばって3匹のズバットに攻撃を喰らわせたけど残りのズバットたちは止められない。キララが5匹くらい『電気ショック』でやっつけたけど10匹くらいのズバットが引き続き私たちに向かって飛んでくる。
「うわあ!」
「キャァ!」
とっさに壁際に寄ったけど何匹かのズバットとぶつかった。ズバットたちの鳴き声が遠くなり、私は目を開けた。青い蝙蝠たちはわたしたちを通り過ぎていった。
「ありがとう、お譲ちゃん。役に立てなくてすまない……」
「いいえ」
どういうこと……?私は残ったイシツブテたちを見た。スボミーとナポレオンの攻撃の射程外にいた数匹のイシツブテが私たちを無視して出入り口に向かった。ズバットとイシツブテはわたしたちを襲ったわけじゃない。たまたまわたしたちと鉢合わせただけ…?
「グオーーーッ!」
またうめき声が聞こえた。落ちてくる砂の量が増えた。だんだん声が大きくなっている。
「一体なにが起こっているの…?」
私は無意味と知りつつ両腕をつかんだ。
止まない地響き。どんどん地面に積もる砂。なにが起きているかわからないけどここは危険だ。そんなの幼稚園児でもわかる。私は作業員のお兄さんを見た。
「またポケモンが来るまえに非難しようか」
お兄さんの考えは変わらなかった。
「ぼくはポケモンバトルは得意じゃないしね。他の作業員のことも気になるけど今は君の安全を確保するほうが大事……」
「お兄さんは先に出て報告してください」
「ええっ!?」
わたしはお兄さんを置いて走り出した。ポケモンたちはついくる。このまま逃げてもよかった。でも今のわたしにはポケモンが………ナポレオン、ビッパー、クルル、キララ、セニョールがいる。なにが起こっても対処できる自信があった。それにさっきから聞こえてくるうめき声は苦しそうだわ。もしかして岩ポケモンがケガをしたのかもしれない。
「キーキーキー!」
野性のズバットたちがわたしたちの横を通り過ぎた。こうもりの鳴き声で耳がきんきんする。落ちてくる砂の量が増えた。確実に近づいている。炭鉱が崩れるくらい暴れるポケモン………きっと大きいポケモンに違いない。炭鉱という場所とそのポケモンの大きさを考えるとそんなポケモン1匹しか思いつかない。道は左右に分かれていて勘で左に曲がった。そのまま走っていくと数メートル先の壁に突如穴が開き、団子みたいにくっついた岩のかたまりが突き出てきた。
「きゃあっ!」
びっくりして立ち止まった。岩は生きものみたいに小刻みに動くと開いた穴に引っ込んだ。………わたしの予想は当たっていた。大きくて岩が団子みたいに重なった姿のポケモンはここ数年間1種類しか確認されていない。穴を無視して曲がり道を進むと地響きの原因がわかった。炭鉱で暴れているのは8m以上の岩蛇ポケモン……イワークだ!
「コ、コ、コ、コリ~ン!」
キララががんばって威嚇したけど効果があったかどうかはわからない。そもそもそんな『鳴き声』みたいな威嚇が暴れるイワークに聞こえそうにない。
「グオーーーッ!イワーーーッ!」」
3人の作業員がイシツブテを駆使して戦っているけど善戦しているとは言いがたい。1匹のイシツブテはイワークにしめつけられているしもう1匹のイシツブテの『体当たり』は効いていない。残りの1匹にいたっては気絶している。
「戻れ!イシツブテ!」
「仲間を救うんだ!『体当たり』!」
「がんばれ!『ロックカット』!」
作業員たちは口々に指示を出していた。どうやらイワークに捕らえられているイシツブテの持ち主は真ん中にいるひげのおじさんみたい。イワークに捕まっていたイシツブテは自分の体を削ってイワークの『しめつける』から逃れた。だけどその直後イワークはしめつけていたイシツブテを尾で弾いた。弾かれたイシツブテは『体当たり』を繰り返していたイシツブテにぶつかり2匹ともノックアウトされてしまった。
「イシツブテ!」
「そんな!」
ひげのおじさんとハゲのおじさんがイシツブテをボールに戻した。イワークはぜいぜい息を吐きながらも暴れ続けた。作業員たちはあせって相談しはじめた。
「やばい!どうする?」
「逃げようぜ!」
「いや、俺はヒョウタさんを呼びにいく!ヒョウタさんならなんとかしてくれるはずだ!お前らは先に逃げてくれ!……っておい!」
作業員たちはわたしがいることに気づいた。リーダー格のひげのおじさんに呼びかけられた。
「君!こんなところでなにをやっているんだ!おい、ハゲ。お嬢さんを出口まで連れて行け!」
「了解!」
ハゲのおじさんが私を抱えようとしたけどわたしはよけた。
「お断りします!」
わたしにはやらなければいけないことがある。
「クルル!『砂かけ』!キララ!『体当たり』!ナポレオン!『はたく』!」
「クルーッ!」
「リ~ン!」
「チャアッ!」
3匹は意気揚々にまえへ出た。指示を出されてないセニョールも3匹に続いてイワークに立ち向かおうとしたけどそのまえにわたしはセニョールを掴んだ。
「ミ~?」
「あなたはお留守番。私を守るのが役目よ」
「ミ~♪」
セニョールは地面に降りると私の足元で構えた。イワークはイシツブテと同じく岩タイプと地面タイプを重ねあわせている。セニョールがイワークのHPを吸い取ったらダメージが大きすぎる。ナポレオンの水攻撃だとさらにダメージは大きくなる。わたしの目的はイワークを倒すことではなかった。一刻も早くイワークを捕獲して騒ぎを鎮めたかった。
戦いに向かわせた3匹のポケモンを見守る。幸いなことにイワークがさっきから暴れていたので地面は砂であふれていた。クルルに目くらましのため砂をかけさせるとキララとナポレオンの攻撃がイワークに当たった。
「グオーーーッ!」
図鑑を開いてイワークの状態を調るとHPが半分ほど減っていた。岩タイプのポケモンにはノーマルタイプの攻撃は効きにくい。『体当たり』も『はたく』もノーマルタイプだ。作業員たちのイシツブテとわたしのポケモンたちの攻撃でようやく半分に減らせた。HPが4分の1になったらボールを投げよう。そう判断したとき作業員の1人に肩を掴まれた。
「君!どうして草タイプと水タイプの攻撃を使わせないんだ?」
「捕獲したいんです!クルル、『影分身』!キララ、『にらみつける』!ナポレオン、『はたく』のよ!『泡』攻撃は使わないで!」
クルルは影分身ができるほど高速に飛び回り、イワークを攪乱(かくらん)した。イワークは本物を見つけようと目を凝らしたところでキララが出てきてにらみついた。
「イワッ!?」
「コ~リ~ン…」
キララはいつもたれている目をなんとか吊り上げて低い声で眼(がん)をつけた。控えめな性格のキララに威嚇させたりにらみつけさせるなんて我ながらひどいかもしれない。でも相手の防御力を下げる『にらみつける』を使えるのはキララだけだ。
「イワーッ!」
「コリッ……」
イワークと目の合ったキララは頭突きを喰らってしまった。続けてかみつこうとするイワークにナポレオンは攻撃を仕掛けた。
「ポーチャッ!」
防御の下がったイワークにナポレオンはすかさずはたいた。でも効果はいまひとつだ。もうちょっと防御力を下げたほうがいいかも。
「こんなのつかまえられるのか?倒したほうが早いぞ!」
「こんなのが倒れたらジャマですよ!キララ!そのままにらみつけて!」
野生のポケモンは倒されたら瀕死になってその場で動かなくなる。しばらく時間が経つと少し動けるようになって食事をとってまた休む。そうすることで次の日には体力満タンで活動できるようになる。なぜだか知らないけどこんなに怒っているイワークを倒しても次の日に起きてまた暴れる可能性が高い。それに体長約9mで210kgもあるイワークが炭鉱で倒れたらジャマになる。
瀕死のポケモンにボールを投げたらそのポケモンの生死に関わる。だからポケモンを捕獲するときはギリギリまでポケモンの体力を減らしてボールを投げるのが決まりだ。イワークはわたしが捕獲したい。実は前から育てたいと思っていた。防御力が桁違いに高いもの。
「ビッパー!加勢して!」
ハゲの作業員を尻目にビッパーを出した。イワークの捕獲ってけっこう難しいわね。
「ビーーップ!」
暗い炭鉱だとボールが放つ光がまぶしい。目をパチパチして調整するとビップに指示を出した。
「『体当たり』、よろしくね!」
「ビーッ!」
ビッパーは3匹の援護をしに行った。図鑑とにらめっこしてたらセニョールが私のブーツをひっぱるのを感じた。
「ミー!ミー!」
セニョールは真面目な性格。きっと4匹が戦うのを見て責任を感じたのね。でもセニョールは赤ちゃんだし…。
「んー……じゃあ『しびれ粉』をイワークに振りかけたあと戻ってきてね」
「ミ~!」
セニョールは小さい足で戦闘に向かった。真面目な子ね~。それにしてもなんでイワークが暴れだしたのか気になる。作業員たちに訊ねようと振り返ったら作業員が1人しかいないことに気づいた。たぶんひげの人はヒョウタさんを呼びに行ったのね。もう1人の弱気そうなノッポの人は逃げたのかしら。
「君すごいな……」
「それよりなんでイワークは怒っているんですか?」
ポケモンたちに目を配りながら訊いた。うっかり目を離すとわたしのポケモンが瀕死になっちゃう。
「おれがいけないんだ……。硬い岩があったから手持ちのワンリキーにつるはしを振らせたんだ。でもそれは岩じゃなくてイワークの体の一部だったんだ」
うわっ……格闘タイプのワンリキーにつるはしで攻撃されるなんて最悪だわ。防御の高い岩ポケモンでもさすがにこたえるわ……。
「それで怒って暴れだしたんですね」
「めんぼくない……」
話が終わったところでセニョールがうれしそうに戻ってきた。上手く『しびれ粉』をイワークに浴びせたのね。図鑑を見るとイワークは見事に麻痺していた。HPは3分の1になっていた。わたしはセニョールをなでながらつぶやいた。
「もうちょっとかなぁ……」
手持ちのポケモンのHPを調べるとクルルとセニョールは満タン、ビッパーはほぼ満タン、ナポレオンとキララは4分の1だった。クルルの『砂かけ』のおかげでポケモンたちにイワークの攻撃はあまり当たってないけどポケモンたちの体が心配だ。あんな硬いポケモンに攻撃し続けていると体が痛んでしまう。イワークを捕獲したら温泉に入れてあげよう。
「ちょっと早いけど試してみよっかな」
わたしはバッグから赤いボールを取り出した。
「いけっ!モンスターボール!」