ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第19話 釣り

「ありがとうございましたー」

 私は雑誌を持ってコンビニから出た。コンビニって便利ね。品揃えいいし24時間開いているもの。警察はトレーナーズスクールまで送るって言ってくれたけど、私はまだそこに戻りたくなかった。かわりに204番道路までの道を教えてもらった。コンビニでコトブキシティのガイドブックも買ったしこれで迷っても大丈夫。

 まだ遠いけどまっすぐ先に草むらが見えてきた。ナポレオンとクルル♪も戦いたくてうずうずしている。まだ町の中だけど2匹くらいポケモン出しても問題ないよね?私は2匹が入ったボールを投げた。

「ポチャ!」
「クルックー!」

 ナポレオンは私の足元まで歩いてきた。クルル♪は私の肩にとまった。

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「もうすぐ204番道路よ。スボミーっていうポケモンを仲間にしたいからよろしくね」

「クルー♪」
「ポッチャァ!」

 元気な声が返ってきた。でもポッチャマはやる気がありすぎて困るな。私はポケモン図鑑を開いた。ポッチャマは現在レベル9。ここらへんで出てくる野生ポケモンはレベル3~4だからポケモンを捕獲するときは手加減してもらわないと…。クルル♪はつかまえたばかりだからレベル4ね。

「あー!」

 誰かが声をあげた。なんだろう?キョロキョロしたら同年代の子たちと目が合った。1人の女の子と2人の男の子が私をじっと見ている。その中のリーダー格の男の子が私に近づいてきた。

「おまえ、もしかしてヒカリ?」
「そ、そうだけど…」

 この子たち誰?トレーナーズスクールの生徒かしら?

「うわー!本物かよー」
「すごーい」
「そのムックルがクルルか~」

 え?なんで私とクルル♪のこと知ってるの?コウキくんから聞いたのかしら。でもトレーナーズスクールにいた生徒たちはコウキくんにわたしに関する質問はしなかったはず……。

「なんで私とクルルのこと知ってるの?」
「え!知らないの?」
「テレビでやってたのにー」

 わたしは首をかしげた。テレビ?

「ぼく録画したよ。ほら」

 ほかの2人より小さい男の子は首にかけていたケータイをいじった。しばらくすると画面にテレビ番組が写った。すごい!ケータイってこんなに小さいのにテレビまで観れるんだ。

ポケモン!捕獲だぜーっ!!今回もポケモンを捕獲したトレーナーの記録をみんなにお伝えするぜーっ!さあ、今回ナイスな捕獲を繰り広げたトレーナーは黒髪ロングのかわいこちゃん、ヒカリだーっ!!』
「えーっ!?」

 本当だ!わたしがテレビに映ってる!いつのまに?!

ヒカリが捕獲したポケモンはなんと!ムックルだってよーっ!ヒカリ!ナイスだぜーっ!しかも捕獲に使ったボールはモンスターボールで、たったの1回で捕獲したんだってよーっ!まったくグレートなトレーナーだぜ!!ヒカリはよーっ!』

 DJのうしろにある画面はナポレオンとクルルの戦闘の映像が短く写ったあと、私がボールを投げるシーンに切り替わった。このDJテンションが高いなぁ……。

『……ん?ちょっと待ってくれっ!また新しい情報が入ったぞ。ヒカリが捕獲したムックルにつけたニックネームがわかったぜ!なんとクルルだってよーっ!ヒカリ!!もう勘弁してくれよー!どこまでイカすんだよアンタ!ホント最高だぜーっ!ヒカリみたいにみんなもガンガンポケモンを捕獲しくれよなーっ!!』
「いや、ポケモンを大量に捕獲すると自然のバランスがくずれるからほどほどに……って!」

 初めてテレビに映ったのに複雑な気分だった。許可なしでテレビに放送されたというのもあるけどこっそり誰かがわたしをカメラで映したということ自体気味悪かった。そういえばコウキくんとコトブキシティに向かう途中で誰かに見られている気がした。もしかしてさっきの映像と関係あるのかもしれない。そう考えると背すじがぞっとした。

「かっこいいー!同じ女の子としてあこがれるー。サインもらっていい?」
「おれにも一応くれ!」
「ぼくも~」

 3人が騒いだから人が集まってきた。

「なんだなんだ?」
「有名人か?」

 見知らぬ人たちに囲まれたら不安が押し寄せてきた。こんなところで時間をくっている場合じゃない。

「ごめん!わたし急いでるの!」

 適当に言い訳すると私はナポレオンを抱き上げてブーツのスイッチを押した。振動が伝わり私の足は加速した。うしろで何人か追ってきたけど、ランニングブーツの性能には適わなかった。

 

***

 

「はぁ…はぁ…」

 走ったあとだから息が荒い。追っかけからなんとか逃れ、私たちは無事に204番道路に着いた。それにしてもナポレオン重かったなぁ…。ポッチャマって5.2kgもするもの。これでもピカチュウよりかは軽いらしいけど…。ナエトルほど遅くないけど心配だから抱き抱えて走っちゃった。

 ついこわくなって逃げたけどさっきの映像が気になる。追っかけは撒(ま)いたけどどこからか視線を感じる。これってもしかして………ストーカー!?

―ガサッ。

「キャアッ!」

 草むらから音がした。な、なに?まさか予感的中?

「だ、だれ?出てきてよ!」

 ナポレオンとクルル♪も気配を察知したのか戦闘体勢に入った。本当はこわかったからナポレオンを抱いてクルル♪に戦わせたかったけどそれじゃあナポレオンが戦えない。しかたなく私も2匹に続いて構えた。






 

―—5分後。

「なんで誰も現れないのよー!!」

 わたしは叫んだ。戦闘体勢に入って5分。音がした草むらのまえにずっと立っていたけど人もポケモンも現れそうにない。もしかして気のせいなんじゃないかと思えてきた。

「ううん。そんなことない。音がしたのは確かだもん。そうだよね?ナポレオン、クルル!」
「ポチャー!」
「クルー!」

 現に2匹とも戦闘体勢を解いていない。わたしにはわからないけどポケモンのナポレオンとクルルならなにかしら気配を感じているはずだわ。

「いい加減出てきなさい!」

 5分前までは恐怖を感じていたけど今はいらだちのほうが大きかった。たとえストーカーだろうと野生のポケモンだろうとやっつける自信があった。

―ガサッ。

 さっきと同じ場所から再び音がした。やっぱりそこにずっと潜んでいたのね…!

「ナポレオン!『あ…」

―ガサガサッ。

 わたしがナポレオンに『泡』攻撃を命じようとしたときそのポケモンは現れた。

「コ、コリ~ン?」

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 草むらからおずおずと出てきたのは大きな丸い耳をした子ライオンだった。ナポレオンより大きくクルル♪より小さい。上半身が水色で、下半身は黒い。その色と頭のはね毛は昨日私とジュンを襲ったルクシオとそっくりだった。でもその目はくりくりとしていてルクシオのように鋭くなかった。むしろ愛嬌さえ感じる。

「コ、コ、……コリ~ン!」

―キューン♡

 か、かわいい…!ルクシオの進化前のポケモンかしら?私は図鑑を見た。図鑑はナポレオンとクルル♪の攻撃力が下がったと警告していた。もしかして今の弱気な声が威嚇のつもりなの?むしろ相手の攻撃力を下げる技、『鳴き声』に近いような……。もう一度図鑑の画面を見るとそのポケモンの体力ゲージの上に名前と性別が表示されていた。[コリンク ♀ Lv.5]。女の子か~。

「リ~ン……」

 コリンクはあとずさった。え?逃げちゃうの?

「コ、コ、コ、……リ~ン!」
 コリンクは走り出した。元々いた草むらにではなく、わたしに向かって。

「えーーっ!?わたし?!」

 コリンクに『体当たり』を喰らうほどひどいことしたっけ?まだなにもしてないよね?!

「ポチャチャッ!」

 あっけにとられていたらナポレオンがコリンクを横からはたいた。

「リッ」

 コリンクは地面に転がった。苦しかったのか咳をしている。

「リ、リ~ン……?」

 コリンクつぶらな目でわたしを見ると悲しそうに鳴いた。そのとたん私の胸はまち針が刺さったピンクッションのようにチクリと痛んだ。ちょ、ちょとぉ……。

「そんな悲しい目で私を見ないでよ~!まるでわたしが悪いみたいじゃな~い!」

 初めてナポレオンにナエトルを攻撃させたときより罪悪感を覚えるのはなぜだろう?こんなかよわいコリンク、野生では生きていけないのかもしれない。キズつけた責任もあるしわたしが保護しなきゃ!

「と、とにかく仲間にするわよ!ナポレオン、下がって」

 コリンクのHPは半分以上減ったので体力ゲージが黄色になっていた。もう1度ナポレオンに攻撃されるとコリンクは瀕死になってしまう。ナポレオンは納得してないみたいだけど一度ボールに戻した。
「いくわよ、クルル!『体当たり』!」

 クルルは斜めに少し飛ぶとコリンクに軽く体当たりをした。

「リ~ン」

 コリンクは倒れた。HPのゲージは赤だ。これくらい弱らせればつかまえられる!

「いけっ!モンスターボール!」

―コンッ。

 ボールを軽く投げたらコリンクの頭に当たった。

「リ~ン?」

 疑問に鳴くコリンクをボールはみるみる吸い込んでいく。

―カタッ。

 いけるかしら…?

―カタタタタッ。

「えっ?」
「クルッ?」

 思ってたより抵抗してる!そんなにつかまるのがイヤなのかしら?

―カタタタタッ……フォン。

 ふぅ。よかった。ちゃんとつかまえられた。コリンクを捕獲したら図鑑が反応した。

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[No.017 コリンク 閃光ポケモン 
高さ0.5m 重さ9.5kg
体を動かすたびに筋肉が伸び縮みして電気が生まれる。ピンチになると体が輝く。]

 

 ふ~ん。まだレベルが低いから電気タイプの技は使えないのね。さっき体光ったっけ?光るまえにボールなげちゃったかも。かわいそうだから回復させてあげよっと。

「ありがとう、クルル。おいで!コリンク!」

 クルルと入れ替わりにコリンクを出した。

「コリ~ン……」

HPが減ったままななのでコリンクは弱々しそうに鳴いた。うっ……。だからごめんってば!今回復させるからそんな悲しい声で鳴かないで~!

「痛い目にあわせてごめんね。すぐ回復させてあげるから」

 わたしはコリンクをひざの上に乗せるとスプレー式の傷薬を取り出した。昨日フレンドリィショップに行ったときにおまけでもらったものだ。ぐったりしているコリンクに傷薬をシューッとかけた。

「リンッ!」

 最初は痛がっていたけどすぐに穏やかな表情を浮かべた。痛みがやわらいだのね。コリンクはゆっくり起き上がった。

「コ、コ、……」

 コリンクはそわそわしていた。さっきつかまえたばかりだからこの状況にとまどっているのかしら?

「コリ~ン」

 ところが意外なことにコリンクはわたしに体をよせてきた。遠慮がちだけど私のおなかにすりすりしている。攻撃するそぶりは少しもない。もしかして……。

「あなた、もしかしてわたしにすりすりしたかっただけなの?」

 思えばこのコリンクは初めて会ったときからそわそわしていた。なかなか草むらから出てこなかったし私のポケモンに攻撃してこなかった。いきなりわたしに向かって走ってきたのは勢いで甘えようとしていただけかもしれない。

「コリ~ン♪」

 コリンクは引き続き甘えていた。私はコリンクの性格を調べるために図鑑を開いた。

[ひかえめな性格。物音に敏感。]

 アハハ…。加えて恥ずかしがりや、といったところかしら。どうしてわたしのところに集まってくるポケモンは扱いにくいのかしら。ナポレオンは意地っ張りだしクルルは陽気すぎるし…。

「よろしくね、キララ」
「コリン?」
「あなたの名前よ」
「リ~ン」

 キララは嬉しそうに鳴いた。次につまえる予定のスボミーはどんな性格かしら……?

 

***

 

 ダメ……!死んじゃダメ……!わたしは必死で走っていた。こんなに必死で走るのはルクシオに襲われたとき以来だ。手にかかえているのは6個のモンスターボール。その中の1匹は特に弱っていて息も絶え絶えだった。

「しっかりして!ビッパー!」

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 ビッパーからの返事がない。きっとHPを消耗しすぎて鳴く元気もないんだ。十字路にある赤い屋根が見えてきた。ポケモンセンターまであと4メートル。お願い!ビッパー!それまで耐えて!

「!?」

 わたしは走るのを止めた。ビッパーの呼吸が聞こえない。そんな……!

ビッパー、そんな……」

 体中の力が抜けて立てなくなった。間に合わなかった……!

ビッパー!ビッパー!………ビッパーーーーー!!」

 わたしは自分の無力さを嘆いた。







 時は30分前にさかのぼる。コリンクを仲間にしたわたしはその勢いでスボミーも仲間にしようと204番道路の草むらをあさっていた。

「見つからないなー。スボミー
「ポチャー」
「クルー」
「コリ~ン」

「ビッ」

 私は3匹のポケモンたちに手伝ってもらいながらスボミー探しをしていた。いつ、どこから出てきても対応できるように前はビッパー、左右にキララとナポレオン、クルルは後ろと4方向を見張りながら歩いていた。

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 コウキくんから聞いた話によるとスボミーは緑色。自然に溶け込んでいてなかなか見つからない。

―ガサッ。

「!?」

 キララのいる方向から4歩離れた場所から音がした。今までノーマルタイプのムックルビッパ、虫タイプのケムッソ、電気タイプのコリンクと目当てではないポケモンばかり出てきた。今度こそスボミー?!

「スッボミ~!」
スボミー!?」

 丸い体の上に重なる2つのつぼみ。細い目に「v」の字の口。首元には濃い緑色のまえかけみたいな模様。ビンゴ!やっと会えたわ、スボミー♡でもイメージとちょっと違うな。赤ちゃんみたいに大きな目をしてるかと思っちゃった。でもこれはこれでありよね。私は空のボールを構えた。

「ここはキララに任せるわ!キララ、『体当た…」

―ガサガサッ。

 え?

「スッボ」
「ミ~!」

 なっ!?

「コリ?」
「ポチャ!?」
「クルッ!?」

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 スボミーが3匹…!ナポレオンとクルル♪がいる場所にもスボミーが現れた。2匹のスボミーは最初に現れたスボミーの元に集まった。3匹は呼吸を合わせるように鳴き始めた。

「スー」
「ボー」
「ミ~」
「「「スッボミ~!」」」

 3匹は一斉に鳴くと一直線に私たちに向かってダッシュした。えーー!?なんでこうなるのー?!シングルバトルとダブルバトルは聞いたことあるけどトリプルバトルなんて聞いたことがない。

「戻って!ナポレオン!」

 わたしはあわててナポレオンをボールに戻した。水タイプのポッチャマは草と電気タイプに弱い。野生のスボミーたちのほうがレベルは低いけど油断は禁物だ。ナエトルはノーマルタイプの技しか使えなかったけどスボミーたちは違うかもしれない。

「お願い!ビッパー!」

 ナポレオンの代わりに丸ねずみポケモンビッパを戦闘に任せた。ニックネームはビッパー。主力に入れるつもりはないけど念のため連れて来ていた。

「キララ!ビッパー!クルル!『体当たり』!」

 3匹はそれぞれの相手に『体当たり』した。レベルの低いポケモン同士、覚えている技が似通ってしまった。レベルが上がればもっと戦術的なバトルができるのに……。でもそんなこと考えてる場合じゃない!

 「「「ミー!」」」

 スボミーたちは『体当たり』を喰らいながらも手のようなつぼみでわたしのポケモンたちをがっしりつかんだ。これはまさか…!

「みんな!ふりはらって!」

 注意したけど遅かった。スボミーたちの体が輝き、キララとビッパーとクルルは小さな叫びを上げた。草タイプの技、『吸い取る』だ!HPを吸い取られちゃった!

「負けないわ!また『体当たり』して!」

 3匹はまた『体当たり』した。だけどスボミーたちも再び『吸い取る』を使ってきた。
 キリがない。こっちが攻撃しても相手はこっちのHPを吸って回復してしまう。あ~ん、もう!ここはゴリ押しするしかないわね!

「距離をとりつつ『体当たり』!攻撃したらすぐ逃げて!」
「リンッ!」
「クルッ!」
「ビップ!」

 3匹にヒット・アンド・アウェイ戦法を命じた。こっちの体力がなくなるまえにカタをつけなきゃ!

「あれ?」

 ふと気づいた。ビッパーの様子がおかしい。キララとクルルはスボミーに『体当たり』したあと上手く離れたけどビッパーは違う。動きがにぶい。スボミーから逃げ切れずにHPを吸い取られてしまった。どういうこと?私は図鑑に目をやった。ビッパーのHPの減りが早い。キララとクルルより明らかに減っている。HPのゲージの左に状態異常が表示されていた。ビッパーの現在の状態は[毒」。毒……!

「しまった!いつのまに!?」

 バッグの中をあさった。毒消しがないか期待したけどわたしの記憶通りあるはずがなかった。それにしてもいつのまに毒を受けたの?スボミーたちの行動をしっかり見ていたから『毒針』を使っていたら気づいたはずだ。でも今のところ『吸い取る』しか使ってない。ということは……。

「まさか特性!?」

 特性はどのポケモンにも生まれつき備わっている能力だ。コリンクは[威嚇」、ビッパは[単純]、ムックルは[鋭い目]。[威嚇」は相手の攻撃力を下げ、[単純]は道具と技の効果による変化を2倍にし、[鋭い目]は自分の技の命中率が下がらない効果がある。たぶんビッパと戦っているスボミーの特性は[毒のトゲ]だ。同じポケモンでも特性が異なることもあるから、残りのスボミーも同じ特性とは限らないけど……。

「がんばって!ビッパー!キララとクルルもスボミーのトゲに気をつけて!」
「ビ~!」

 ビッパーは私の気持ちに応えようと弱りながらも『体当たり』をした。だけどフラフラしていたのでスボミーにあっさりと避けられてしまった。

「ミ~♪」

 スボミーはぴょんぴょん跳ねていた。赤ん坊の無邪気さはときに恐ろしい。悪気はないだろうけどビッパーが毒で苦しんでいるのに喜んでいるなんて…。

―タランタランタランタラン。

 図鑑から不快な音が鳴り始めた。ビッパーのHPを示すゲージが赤くなったからだ。スボミーたちのHPはまだ黄色いままだ。少し早いかもしれないけどしかたがない。

「キララ!クルル!もう攻撃しなくていいわ!」

 2匹がわたしの元へ戻ったのを確認するとボールを投げた。まずはビッパーを苦しめたスボミーからよ!

「わるい子!」
「ミッ!」

 よしっ!当たった!

「めっ!」

 今度はクルルに攻撃したスボミーに向かって投げた。

「あなたもよっ!」

 最後にキララと戦っていたスボミーに投げた。あとは待つのみだ。

―ガタッ。ガタッ。ガタッ。

 3個のボールは違うタイミングで揺れた。けれどボールの揺れは順番に治まった。最後に捕まえたスボミーは手持ちがいっぱいになったのでパソコンに転送された。ふぅ……捕獲完了!

ビッパー!」

 わたしは動けないビッパーに駆け寄った。スボミーたちは捕獲できたけどビッパーは弱ったままだ。わたしは傷薬を取り出すとビッパーにかけた。

「ビッ」

 HPは回復して赤から黄色になった。でも毒は治らない。

「みんな!戻って!」

 わたしは次々にポケモンたちをボールに戻すとポケモンセンターへ急いで向かった。







 だけど結局ポケモンセンターまで間に合わずビッパーは気絶してしまった。呼吸があまりにも微かだったから死んだと思ってしまった。わたしはポケモンセンターのベンチに座りながら反省していた。ポケモンは瀕死になったら戦う元気がなくなるだけで、死ぬわけじゃない。それはわかっているけど初めてポケモンを瀕死にさせてしまったので落ち込んでいた。こんなことなら傷薬だけでなく毒消しと麻痺治しも買っておけばよかった。

「6番のヒカリさま、カウンターまでおこしください」

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 ジョーイ(女医)さんに呼ばれた。きっとポケモンの回復が終わったのね。ボールの入ったトレーを渡され、私はおそるおそるビッパーの入ったボールをのぞいた。

―カタタタタッ。

 ビッパーはニコニコしながらボールを揺らした。よかった。元気そう。それに怒ってないみたい。

「おまちどうさま!お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ!またのご利用をお待ちしております!」

 ジョーイさんがお辞儀をしている間にボールをバッグに詰めた。長居は無用だ。

「お世話になりました」

 お礼を言うとカウンターから離れ、パソコンのあるイスに移動した。なにをするか考えようとしたら鐘が鳴る音が聞こえた。腕につけたポケッチを見たらもう5時だった。

「はぁ……」

 ため息をついた。ジュンとコウキくんは警察から解放されたのかしら? わたしはポケモンセンターを出たらどこへ行くか迷った。

 

***

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 いきなり3匹のスボミーに襲撃され、さらにビッパーが毒を受けたからたから動揺してスボミーを3匹ともつかまえてしまった。おかげでコウキくんに買ってもらったボールを使いはたしてしまった。フレンドリィショップで道具を調達するまえにスボミーを2匹逃がすことにした。

 ビッパーを一時的にパソコンのボックスに預けて3匹目のスボミーを引き出した。3匹のスボミーをボールから出すと1匹1匹調べるために図鑑を当てていった。

「スッボ!」
「はいは~い。おとなしくしててね~」

 1匹目のスボミーはオスでなまいき。特性は[毒のトゲ]だった。きっとリーダー格のスボミーね。ビッパーと戦った子。ビッパーを苦しめた子だしなまいきな性格は扱いにくいからこの子は逃がそう。

「スボッミー!」

 2匹目はやんちゃなメス。クルルと戦った子だ。この子も特性が[毒のトゲ]だからちょっとヤダなぁ……。やんちゃってことはおてんばだからクルルとケンカしそうだし…。

「ミ~」

 こうして鳴き声を聞いてみると同じポケモンでも鳴きかたが微妙に違う。最後のスボミーはキララと戦ったまじめなオスだった。特性は[自然回復]。……ん?[毒のトゲ]じゃないんだ!

[自然回復]が特性のポケモンはボールに戻すと状態異常が治る。

「この子がいいわ!」
「ミ~」

 相手のポケモンをじわじわ苦しませる[毒のトゲ]より自分の身を守る[自然回復]のほうがよっぽどいい。私はまじめなスボミーを抱き上げた。まだ幼いスボミーは宙にいるのが面白いのか足をバタバタさせてよろこんでいた。まるで「たかいたかい」をされてよろこぶ赤ちゃんみたい。この子を仲間にすると決めたらさっそくニックネームをつけてあげなくっちゃ!え~っと……この子はまだツボミだけど立派なバラを咲かせるはずだわ。バラ、バラ、……バラといえば情熱の赤。赤といえば闘牛士……情熱のスペイン。

「セニョール」
「ミィ?」
「あなたの名前はセニョールよ」
「ミ~♪」

 セニョールはスペイン語の男性に対する敬称だ。いわゆる英語でいうミスター。将来はフラメンコを華麗に踊るスパニッシュ・ダンサー。よ~し!どのスボミーを連れて行くか決めたし、残りの2匹を野生に戻そっか。
 フレンドリィシップを出て私は計算をしていた。ナポレオンはボールに入りたがらないので外に出している。200円のモンスターボールを5個、300円の傷薬を3個、100円の毒消しと200円の麻痺治しを2個づつ買った。合計金額は2,500円。はぁ…一気に減っちゃった。

「一、十、百、千…」

 もしかしたらと思い数え直したけどサイフの残りはあいかわらず3,240円だ。買い物するまえはジュンと202番道路のトレーナーからもらった賞金を含めて5,740円も持ってたのに……。まあ、しかたないか。最初のモンスターボールはコウキくんからもらったものだし、使った傷薬ももらいものだしランチはコウキくんにおごってもらった。むしろ節約できたほうね。

「ママが払ってくれないとつらいな~……ってあれ?」
「ポチャ?」

 計算していて気づかなかったけど、私は町のはずれにきていた。トレーナーズスクールはとっくに通り過ぎていた。目の前にはオレンジ色の水が広がり、木で作られた橋が小島と陸地を結んでいる。小島からさらに続く橋は水の真ん中で途切れていた。

「ポチャー♪」

 ナポレオンは勝手に水の中に飛び込んだ。やっぱり水ポケモンは水を見ると泳がずにはいられないんだ。横から風が吹いてきた。

「うっ」

 わたしは鼻を覆った。潮の匂い……これが海の香り?なつかしいけどこわい。風がきた方向を見ると岩の壁が海を分断していた。シンジ湖より水が少ないように見えるけど、岩の向こうには海が広がっているに違いない。ほんの一部分とはいえ海を見ていると気持ち悪い。それにこんな人気のないところにいると危ない人に襲われるかもしれない。例のテレビの件も気になる。

「帰ろ、ナポレオン」

 海を背にして歩きはじめたけど立ち止まった。帰り道がわからない。ここはどこ?町のゲートにある看板には『218番道路』と書かれていた。居場所がわかればこっちのもの。ガイドブックについている地図を見れば道がわかるはずだわ。

「……ない」

 イヤな汗が流れた。ガイドブックが見つからない。タウンマップはあるけど私が今必要なのはコトブキシティの地図だ。あれがないと帰れない。

「うそ……」

 バッグの中にはサイフ、ティッシュ、ハンカチ、タウンマップ、ポケモン関係の道具はあるけどガイトブックだけない。たぶんポケモンセンターに忘れてきちゃったんだ…!

「そんな……どうしよう」

 野宿するにもテントも非常食もトレーナーズスクールに置いたままだ。それに追い討ちをかけるようにお腹が鳴った。いつもならママが夕ご飯を用意してくれる時間なのに。

「うっ……うっ……うわ~~ん!!」
「ポチャッ!?」

 道具がないとなにもできない自分がなさけなくて泣いた。コウキくんのまえで転んで気絶して迷惑をかけた。ジュンの弁償金も払えなかった。ビッパーが毒を受けたのに治せなくて瀕死にしてしまった。スボミーを3匹もつかまえてボールを無駄にしてしまった。迷子になったあげくガイドブックを忘れてしまった。1人ってなんて心細いんだろう。シンジ湖で迷子になったこともあるけどそのときはジュンがなんとかしてくれた。いつもえらそうにジュンに説教してたけど、わたしって1人じゃなにもできないんだ。

「ポチャチャ~」

 ナポレオンの困った声が聞こえた。ナポレオンは心配してるのかしら?それとも呆れているのかしら?うしろから砂利を踏む音が聞こえた。誰?こんなときになんのよう?

「声が聞こえるから来てみれば女の子が泣いているじゃないか。こんな時間になにをしているんだ~?」

 おじさんののんびりな声が聞こえた。

 しゃっくりみたいな呼吸を抑えてハンカチで目を拭いた。ぐちゃぐちゃな顔を見られるのがはずかしくって、ティッシュで鼻をかんだあとようやくわたしは振り向いた。涙は止まらなかったけど。

「迷子になってしまったんです」

 もう1度目をふいた。ナポレオンはおとなしくそばにいる。話しかけてきたおじさんは赤い帽子と赤いベストを着ていた。Tシャツは白でズボンは茶色。服装が誰かに似ていたけどそれが誰に似ているのかわからなかった。

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「おじょうちゃん、海は好きかい?」
「えっ……」

 この人はいきなりなにを訊くんだろう。

「いいえ。あんまり……」
「あちゃ~。最近の若い子は海が嫌いなのか~」

 おじさんは頭をボリボリかいた。

「じゃあ釣りは嫌いかい?」
「いえ、そんなことありません」

 海じゃない場所なら釣りは歓迎だ。釣りなんで一度もしたことないけど。

「うむ!そりゃあよかった。君には私のお古の釣竿をあげよう!」

 わたしがなにか言うまえにおじさんは短い釣竿を押し付けた。

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「釣りはいいよ~。水のあるところならどこでも釣りをするといいよ!」

 そう言いながらおじさんは自分の持っている釣竿を構えた。

「まずは水面に向かって釣り糸を投げる!」

 ルアーのついた釣り糸が海にぽちゃんと落ちた。

「次に気持ちを集中!ポケモンが喰いついてきたらそのときに素早く釣竿をひくんだよ!ほら、君もやってみな!」
「は、はぁ……」

 言われるがままにもらった釣竿を使った。ナポレオンが警戒してる様子はない。わるい人ではないわね。釣竿タダでくれたし。

―クンッ。

「!」

 釣竿が反応した。

「ほら!ひいて!」

 夢中でリールを回した。けれどポケモンが抵抗するからリールを回すのに限界があった。

「逃げられるぞ!ひっぱるんだ!」

 わたしは腰に力を入れて思いっきり釣竿をひっぱった。

―バシャアッ。

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 水しぶきから現れたのは頭に黄色いかんむりみたいな背びれがついている赤い魚ポケモンだった。

コイキングだわ!」
「おお!おじょうちゃんよく知ってるね」

 まだ図鑑に登録されてないポケモンだ。つかまえなきゃ!コイキングが逃げないように地面に降ろした。捕獲開始!

「ナポレオン!海に逃げないように見張って!」
「ポチャアッ!」

 ナポレオンは海に逃げようとするコイキングをとおせんぼした。その間にわたしはキララの入ったボールを投げた!

「キララ!つかまえるわよ!『体当たり』!」
「コリ~ン!」

 





 

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 数分後、わたしは地面にあるボールを拾った。

コイキング、捕獲完了!」
「リ~ン♪」
「ポッチャ!」
「ワッハッハッハッハッハ」

 おじさんはわたしたちを見て笑い始めた。なんで笑ってるんだろう?別に変なポーズとってないのに。

「すごいね~。コイキングを5分で捕獲しちゃうなんて。さっきまでの悲しさはどこにいったんだい?おじょうちゃん」
「あっ!」

 コイキングを捕獲して初めて気づいた。釣りおじさんはわたしを元気づけるために釣りを教えてくれたんだ!

「もう大丈夫です!ありがとうございます!」

 わたしは頭を下げた。キララもつられて頭を下げる。ナポレオンは乗り気じゃなかったけど、けっきょく頭を下げた。

「いや、釣りの素晴らしさをわかってもらえればそれで充分さ!道案内は休憩ゲートにいるおまわりさんがしてくれるよ。わたしはもうちょっと釣りをするね」

 カラスが鳴く声が聞こえる。もう夕方なのに釣りをするの?それとも夜のほうがかえって大物を釣りやすいのかしら?

「はい!お世話になりました!」
「釣竿大事にするんだよ~。魚のエサを使えば普通の魚も釣れるからね~」

 おじさんと手を振って別れた。なんだか胸がポカポカする。困ったときは知らない人でも助ける。そんな当たり前のことを改めて釣りおじさんに教えられた気がした。

 

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