ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第14話 酔い

「ふ~んふんふふ~ん♪」

 鼻唄交じりにわたしは双眼鏡を覗いた。辺りは見渡す限り緑でいっぱいのフィールドだ。

「ポチャア?」

 わたしのかわいいポッチャマ、ナポレオンはわたしの行動を理解してないみたい。

「めずらしいポケモンいないかな~?もしくはかっこいい男の子♡なんちゃって♪」
「ポッチャ!」

 双眼鏡からポッチャマに目を移すとナポレオンが誇らしく手を胸に当てていた。ぷっ。自分がいい男だってアピールしてるのかしら?

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「アハハッ。確かにめずらしいポケモンね。おまけにかっこいい♡」
「ポチャアッ!」

 わたしはナポレオンをなでた。ほめられて気を良くしたのか今回は手をはねのけられなかった。こういうときぐらいしかさわらせてくれないからさみしいのよね。

「それにしても見たことのあるポケモンしかいないわね」

 ここは202番道路。マサゴタウンの北口を出たところにある。この道路の先は初めて訪れるであろう都会、コトブキシティへと続いている。しばらく散策してみたけどここの分布は201番道路に出てくるポケモンと変わらない。

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ビッパムックルしか出てこないわね。ビッパはもうゲットしたから今度はムックルを仲間にしようか」
「ポチャ!」

―ガサッ。

「「!?」」

 後ろから音がした。振り返ったら左の木から野生のムックルが飛び出してきた。

「クルッポー」

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 ムックルは地面に着地した。逃げる気配はない。わたしたちがどう出るか見ているんだわ。ラッキー☆いいタイミング。さっそく捕獲開始!

「捕まえるわよ!ナポレオン、はたいて!」
「ポチャ!」

 ナポレオンはムックルに向かって走った。ペンギンポケモンのポッチャマは地上では上手く歩けない。素早さは低いけど、レベルの差でなんとか埋められるはず…!

―バシッ。

「クッルー!」

 ナポレオンの『はたく』攻撃が当たった。先制攻撃は成功!

「クルッポー…」

 ムックルは羽を羽ばたいてバランスを取った。目つきが変わってる。緊張感が私たちを包んだ。わたしとナポレオンを敵と認識したのね。今のところ空へ逃げる気配はない。ムックルは立っていた位置から2、3歩下がった。来る…!

「『体当たり』がくるわ!よけて!」
「クルーッ!」

 ムックルがナポレオンに向かって跳んできた。ナポレオンは正面から30度の角度でよけようと移動した。雑草とナポレオンの足が摩擦する音が聞こえる。

「ポチャッ?」

 だけど6歩進んだところで足が滑って転んでしまった。しまった!ポッチャマは地上で歩くのが苦手だった!

「ナポレオン!」

―ドカッ。

「ポチャッ!」

 よけるのに失敗したポッチャマは体当たりをもろに受けてしまった。図鑑に目をやった。受けたダメージはHPの3分の1。急所のおなかに当たったからダメージが大きかったのね。

「クルックー」

―バサッバサッ。

 ナポレオンに一矢報いてスッキリしたのか、ムックルは羽ばたき始めた。やばい。逃げられる!

「ナポレオン!『泡』で攪乱(かくらん)!」

「チャマッ」

―プポポポポッ。

 ナポレオンの口から吐いた泡がムックルを囲む。

「クルッ?」

 視覚を閉ざされてとまどっている。今のうちに…!

「ナポレオン!」
「ポチャーッ!」

 ポッチャマは1メートルくらい走ってジャンプした。

「地面にはたきおとして!」

―ベシッ。

「クルーッ!?」

 ムックルは地面にぶつかった。今だ!私は急いでバッグから空のモンスターボールを取り出した。

「えいっ!」

―ヒュッ。……カッ。

 投げたボールはムックルの背中に当たった。ボールが半分開き、中から閃光が走った。光に包まれてムックルはボールの中に吸い込まれていく。

―ガタッ。ガタッ。

 ポケモンをボールの中に捕らえても気が抜けない。ボールの中央にある開閉スイッチはまだ赤く点滅している。ボールが動かなくなるまでが勝負だ。

―ガタッ……フォン。

 ボールの揺れと点滅が収まり、ドレミのソの音がした。ふう……捕獲完了!わたしはムックル入りのボールへ歩んだ。そ~っとボールを右手で掴むと、柄じゃないけどポーズを取りたくなった。だって初めてポケモンをつかまえたんだもん。記念にポーズくらいとってもいいよね?ボールを右手に取ったまま前に出し、左手を曲げて顔の横でピースしてみた。

ムックル、ゲットだぜ♪……なんちゃってw」

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―パチパチパチ。

 え?拍手の音?反射的に音のするほうへ振り向いた。拍手をしていたのは…………。

「おめでとうございます、ヒカリさん」

 つま先から頭のてっぺんまで熱くなった。数メートル先で手をたたいていたのは爽やか笑顔のコウキくんだった。そ、そんな………よりによってコウキくんにポーズ取ってるとこ見られるなんて…!?ふと昨夜見た結婚式の夢が脳裏に浮かんだ。

「キャーーーー!!わたしもうお嫁に行けないーーーー!!」
「ポチャッ!?」
「ヒカリさん…?」

 わたしは素早くナポレオンをボールに戻した。驚くコウキくんをよそに私はマサゴタウンに向かって逆走した。

 はずかしい!はずかしすぎる!なんでポーズなんか取っちゃったんだろう?しかも私おちゃめに右足まで上げてた!なんでアニメのセリフ言ったんだろう?なんでもっと周りを確認しなかったんだろう?もう前なんて向いて走れない!

 鈍足のわたしが早く走れるのはママからもらったランニングブーツのおかげだ。ありがとう、ママ。まさかこんなときに加速スイッチ付のブーツが役に立つなんて…。

 わたしは顔を上げた。だって下ばっかり向いてたら上手く走れないんだもん。でもすぐに前を見ないで走っていたことを後悔した。道を走っていたつもりが、いつの間にか目の前には林が広がっていた。ああっ!?

「ぶつかるーーー!」

―ゴンッ!

 止まれるはずなんてなかった。痛みが体の縦から垂直に走った。痛い……。わたしは自分の意識が薄らいでいくのを感じた。
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***

 

「はっ!?」
「わっ!?」

 わたしは飛び起きた。……って痛っ!目が覚めたと同時に体がズキッとした。なにがおこったんだっけ?

「大丈夫ですか?ヒカリさん」
「ポチャポチャア?」

 横を向いたらコウキくんとナポレオンがいた。2人とも……いや、1人と1匹?とにかく両方とも心配そうに私を見ている。身体はまだ痛むから上半身しか起き上れない。

「ん……なんとか」

 返事をしたらコウキくんとナポレオンは胸をなでおろした。

「よかったです」
「ポチャ~」

 わたしはもう大丈夫だということを証明するために笑ってみせた。それにしてもどうして倒れたんだろう?周りを見渡す限りまだ202番道路にいるみたい。

「どうして気絶したんだっけ?」

 なぜか気絶する前の記憶が曖昧だわ。

「ああ、ヒカリさん…!」

 コウキくんは膝をつき、右手を私に差し出すかのように上げた。なんだか長いセリフを言いそうな予感。

「あなたが無事でなによりです。コトブキシティに向かうであろうヒカリさんをお待ちしていたらなにかが遠くでキラリと輝いたのです。常人にはわかりませんがボクには一目でわかりました。虹色に輝く黒髪。風でなびく流れるような長い髪。なにを隠しましょう?それはプラチナのごとく輝くあなたの髪の毛だったのです」

 わ~。前振り長~い。わたしはただ自分がどう倒れたか知りたいだけなのに。

「ただ事ではない様子のあなたの後姿。邪魔をしないよう、そっと近づいてみるとあなたが野生のムックルと交戦中ということを知りました。失礼ながら後ろであなたの戦いの様子を拝見させていただきました。」

 あ、ムックルを捕獲しようとしてたときからいたんだ。

「第三者のボクの目から見ても力の差は歴然。ただでさえ戦闘能力の高いポッチャマアフロディーテの化身、ヒカリさんが指揮を取られているのでムックルが敵うはずありません。ところが慈悲深きあなたはムックルを倒さず捕虜にしたのです」

 出た。アフロディーテ。倒すもなにも最初から捕獲するつもりだったんだけどな。モンスターボール手に入れるまで野生のポケモン何匹も倒したけど…。

「あまりにも見事な腕前だったのでボクはあなたに話しかけました。ところが…」
「ところが…?」

 私は体を引き締めた。ようやく肝心の話が聞ける。

「転んでしまったのです」
「え?」

 そうだっけ?

「ボクが褒めた直後ヒカリさんはあおむけに転んでしまったのです」
「そ、そうなの?ナポレオン」
「ポ、ポチャ!」

 話しかけられたナポレオンはビクッとしたあと二度頷いた。ぎくしゃくしてるみたいだけど突然話しかけられてビックリしたのかしら?

「きっと緊張が解けてうっかりしていたのでしょう。気にしないでください」
「ありがとう、コウキくん」

 わたしたちは互いに笑った。コウキくんの笑顔には癒されるなぁ。でもなにか肝心なことを忘れているような……。

「ああ、ヒカリさん…!気絶したあなたはまるで眠れる森の美女。その美しい寝顔を少しでも長く眺めていたいと思いましたが、悪夢から姫を救うのが王子の務め。いつ甘味な夢が悪夢にすりかわり、あなたの気高い精神を蝕むか想像をしただけで恐ろしい。永遠に眠る美しい少女は神秘的ですが、同じ時を過ごせないのはボクにとって永遠の苦痛を意味します。そんなのボクに耐えられそうにありません。一刻も早くあなたを目覚めさせようとキスを……」
「えぇ!?」

 私は慌てて唇を覆った。顔が熱くて目から火がでそう。もしかしてキスされちゃったの?コウキくんに?は、はずかしい…!

「……しようとしましたが」
「へ?」

 わたしは手を下ろした。当たり前のことだけど、息がしやすくなった。「キスをしようとした」けど……?

「ヒカリさんのナポレオンにはたかれてしまいました」
「は、はあ…」

 顔の熱はすぐにクールダウンした。そっか。わたし、コウキくんにキスされなかったんだ。もったいないようなほっとしたような……。わたしはナポレオンをチラッと見た。

「……チャッ!」

 ナポレオンは地面につばを吐いていた。…お行儀悪いわね。わたしのしつけが悪いのかしら?う~ん。これはナポレオンにお礼を言うべきか叱るべきか迷うわね。コウキくんの手前でナポレオンをほめるのも失礼だし。ナポレオンの対応には困ったけど、とりあえずコウキくんの目を盗んで頭を撫でておいた。

「ポチャッ♪」

 機嫌取り成功。次はコウキくんに謝らなきゃ。

「ごめんね、コウキくん。また助けられちゃったね。」
「いえ、当然の義務です!」
「ううん。初めて会ったときからお世話になりっぱなし。お礼になにかできることないかしら?」

「ではボクにコトブキシティを案内させてください!あとぜひお食事をともに!」

 コウキくんは右腕を胸に当てて答えた。

「え?それでいいの……?」

 それだとお礼にならないと思う。むしろコウキくんにまたお世話になってしまう。

「もちろんです!ヒカリさんと一緒にいることがむしろご褒美です!それに紹介したい場所がたくさんあるんです!」
「じゃあお願いするわ」

 ナポレオンは私の足元でへっと笑っていた。

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