ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『白黒遊戯』第9話 スリル

 ここはサンヨウシティ。サンヨウとは3つ並ぶ星のこと。トレーナーズスクール・サンヨウシティジム・マコモの研究所の3つの施設があるちょっとした都会の町だ。そんな賑わう町を駆ける2人のカップルがいた。そしてそれを追いかける少年も。

「待てーーーーー!」 

 少年の叫びに通りすがりの人たちは足を止める。叫んだのは3つ星レストランのシェフのポッドだった。この町の有名人がなぜレストランを放ってカップルを追いかけている。無銭飲食だろうか?

「オレの女を返せえええええええええ!!」

 それを聞いて通りすがりの人たちはホッとした。ただの色恋沙汰か、と。人々は安心すると同時に興味がわく。ジムリーダーでもあり一流ソムリエである彼が恋した相手とは?

「お~。ついにあのポッドも恋をしたのか~」

 サンヨウジムの得意先の青果店のおじさんはぽつりとつぶやいた。

「んまあ!青春ね~。わたしたちの出会いを思い出すわ~」

 青果店の奥さんも感心していた。この流れだと夫婦の会話はのろけ話になりそうだ。 

「イヤーーー!ポッドさまーーー!」
「デントさまはまだ空いてるわよね?」
「コーンさまのほうが好みだけどショック!」 

 3つ子のファンたちは心中おだやかではない。ポッドの恋は町の人にとって驚きか戸惑いのどちらかだった。

 

***

 

「ノエルーーー!好きだあああああああああっ!!」

 ノエルと青年はさっきから走っては隠れている。ツタージャはボールにしまった。ジム戦後に休んだとはいえ彼女はツタージャを再び疲れさせたくなかったのだ。走って、隠れて、休んで、また走る。その繰り返しだ。あるときは建物の後ろに。あるときは人が座るベンチの下に。あるときは像の後ろに。あるときは茂みの中に。あるときは花壇の影に。いずれもせまい場所で密着することになる。初めての経験にノエルはドギマギしっぱなしだ。

「ノエルーーー!どこだああああああああああっ?!」 

 土地の利はポッドのほうがある。見慣れぬ街での追いかけっこは不利だ。ノエルはずっとNに引っぱられていた。彼女が本気を出せばポッドを振り切ることは可能だがNを置いていくわけにはいかない。それに道がわからない。Nに引っぱられるまま走っているがそもそも道をわかっているのだろうか?後先考えずに走り回ってすでに迷子になっているかもしれない。知らない町を1人でさまようのは彼女も避けたいところだった。

「こっちだ」

 Nに引き寄せられノエルは建物と建物の隙間に入り込んだ。Nはノエルを固く抱きしめ鬼を警戒した。青年の胸板に顔を押し付けられノエルは真っ赤になる。

(ちょっ……!あったかい……じゃなくて!なんでこんなことになってんの?!)

 ポッドに追いかけられているせいか。それともNに抱きしめられているせいか。あるいは両方か。ノエルは呼吸ができないくらい心臓がドキドキしていた。

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 2人は見つからないように息を殺している。鬼は足を止めてキョロキョロした。

「くっそ~……また見失った……。オレは諦めないからなーーーーー!!」

 そう言ってポッドは走り去っていった…………はずだが悲劇が彼を襲おうとしていた。

「なんだ!?このチョロネコは?!」
「ニャ~~♪」

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 どこからともなく紫色の猫が現れポッドの行く手を阻んだ。性悪ポケモンチョロネコだ。チョロネコは愛くるしい目でポッドを見つめている。 

「あー……わりぃ。今食べものはなにも持ってないんだ。レストランに戻ればうまいもん食わせてやれるんだけど……」
「ニャ~?」

 チョロネコは首をかしげて目をパチパチした。エメラルドの目とアイシャドーのようなピンクの模様でかわいさ倍増だ。ポッドは頭をかいた。せめてなでてあげようとチョロネコに手を伸ばすがギョッとした。いつのまにかチョロネコが3匹いる。最初は1匹だったがその数はどんどん増えていく。

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「ニャ~」
「ニャ~」
「ニャ~」

 路地裏から、脇道から、屋根から、花壇の隙間から。チョロネコの数は膨れやがて30匹になった。猫好きにはたまらない光景かもしれないが同じ色の猫がこんなにいたら不気味だ。ポッドは狼狽しつつコミュニケーションを図ろうとした。

「え?なんでおまえらこんなにいんの?いくらなんでもこの数じゃレストランの食糧がを……ってうおおおおおおおおおおおおおっ?!」

 ポッドが言い終えるまえにチョロネコたちが一斉に飛びかかった。ほどなくして燃え盛るような赤毛は見えなくなり人型の紫色のかたまりができあがる。

(なに?なにが起きてるの?)

 ノエルは隙間から顔を出そうとするがNに頭を押さえつけられる。彼は彼女の耳に早口でささやいた。

「まだだ。もうちょっと待って」
「……?」

 紫色のかたまりがもぞもぞ動く。ポッドは紫色になった元凶を何匹かつかんで投げた。まだチョロネコが数匹くっついたままポッドは走り出した。

「オレがなにをしたっていうんだああああああああああああああああっ!!」
「ニャ~♪」
「ニャ~♪」
「「「「「ニャ~♪」」」」」

 チョロネコたちをくっつけたまま別のチョロネコたちに追いかけられる少年。意味不明の光景に事情を知らない人たちはクスクス笑っていた。

 

***

 

「……行ったみたいだ」

 Nは腕を離した。ノエルはようやくNから解放された。せまい隙間から出て通りで息を吸う。今までずっと熱かったせいか空気が涼しく感じる。

「さっきのチョロネコってあんたの……?」

 今朝カラクサタウンでNとバトルをしたときチョロネコが相手だった。あの大勢のチョロネコのうち1匹はNのだろうか。 

「……うん。チョロネコはトモダチだから。仲間を連れて助けにきてくれた」

 Nは早口だから気をつけないと聞き逃してしまう。うるさい心臓を無視して神経を耳に集中したのでなんとか聞き取れた。ポッドから逃げ切れたのに心臓が静まらない。ドキドキする理由がわからずノエルはイライラしていた。

「べ、別に助けてくれなんて頼んでないんだからね!」
「…………?」 

 Nはわずかに口を開ける。ノエルはずっと彼を見ていたい気持ちに駆られたが顔をそむけた。

「お礼なんて言わないわよ!」
「別にボクが勝手に助けただけだから言わなくてもいいけど……」
「…………」

 ノエルは下を向いた。ドキドキはまだ止まらない。この気持ちがわからず自分1人だけあせっていると思うとNが憎たらしく感じる。

「どさくさにまぎれて手を握ったり上に覆い被さったり抱きしめたり……馴れ馴れしいのよ!あんた、自分がイケメンだからなにされても許されると思ってるんでしょ?!」
「イケメン……?」

 そう。ノエルは気づいてしまったのだ。今までは帽子を深く被っていたのでわからなかったが、その帽子の下の顔が思いのほか整っていることを。サンヨウジムの3つ子よりイケメンだ。ノエルは認めたくないがNはかっこいいのだ。

(どうせナルシストなんでしょ。じゃなきゃあんなふうに遠慮なく抱きしめるわけないって!)

 ところがNの反応はノエルの予想を裏切った。

「……イケメンってなに?」
「はあ??」

 小悪魔は電波の質問に面食らった。今時の若者が「イケメン」という言葉を知らないなんて普通ありえない。ノエルはNがふざけていると思ったが嘘をついているようには見えなかった。……たぶん。Nはあまり感情を出さない。人の表情を読むのが得意なノエルでもわからない。ノエルはなぜこんなことしなければならないかと思いつつ説明した。

「イ、イケメンっていうのは「イケてるメンズ」の略よ!つまり……かっこいいってこと!」
「……そう。ボクのことかっこいいと思ってくれたんだ……。ありがとう」
「ど……どいたしまして?」

 さっきからずっとNのペースだ。しかも彼は自分がノエルのペースを乱していることにすら気づいていない。ノエルは髪をクシャクシャにしたい気分だった。

「あ~んもう!あんたといるとわけわかんない!行きましょツタージャ!」 

 Nに背を向けてノエルはぽーんとボールを投げる。ツタージャは今までなにが起こっていたかわからず首をかしげた。

「……タジャ?」
「どこでもいいからあいつがいない場所に行くわよ」
「タージャ♪」

 ツタージャは敬礼をしてノエルについていった。Nは立ったままだ。ノエルを追う気配はない。安心したようなムカつくような気持ちにノエルは悩んだ。10歩くらい進んだところでノエルは立ち止まった。 

「…………ありがと」
「タジャッ!?」

 小さくお礼を言うとノエルは全速力で走った。ツタージャは両手をバタバタさせながらついていった。 

「…………?」 

 Nはしばらく同じ場所にぽつんと立っていた。

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