ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第12話 最後の晩餐

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「お兄ちゃんの外見は69点かなー。容姿がぱっとしないぶん内面で勝負しなくちゃねー」
「そ、そうね……」

 私はティーカップを手に取った。アキコちゃん、本当に7歳なのかしら?男の子の顔に点数つけてるだなんて……。大きくなったら男を手玉にとりそう。私は残りのカモミールティーを飲んだ。コウキくんの家に来てからしばらく時間が経った。私とアキコちゃんはベッドの端に座っていた。体の疲れもとれたし、ナポレオン(ポッチャマ)も充分休めた。そろそろ帰りたいところだけど……。

 私はナポレオンをちらりと見た。ナポレオンはアキコちゃんのひざの上にいる。渦巻き模様のクッキーをもぐもぐ食べていた。ずっとボールの中にいたらかわいそうだから、コウキくんが部屋を去ったあと出しておいた。いじっぱりのナポレオンでもおだてには弱かったのか、アキコちゃんにかわいがられることを許していた。

 私はこっそり木製のハト時計を盗み見した。4時34分だった。それにしてもいいなぁ、この部屋。私の部屋もお姫さまベッドとハト時計があるだけで見違えるのに……ってそうじゃなくて!楽しそうに話すアキコちゃんには悪いけど帰らなきゃ。現実に。私はそっと立ち上がった。

「アキコちゃん、もうそろそろ帰りたいんだけど……」
「ポチャ?」
「えー」

 予想通りアキコちゃんは不平をもらした。ナポレオンはアキコちゃんのひざから離れた。

「お母さんに電話してここに泊まりなよー」

 なんてステキな提案!こんなにきれいな部屋に泊まれると想像しただけで幸せな気分になる!もう少しで「うん!」と答えそうになったけどこらえた。明日から旅に出るなら帰って荷造りする必要がある。『マサゴタウンのお屋敷。プリンセスルームあり。コウキくん・アキコちゃんつき』は魅力的だけど断らなきゃ。

「ごめんね。また今度ね」
「えー」

 私はアキコちゃんの頭をなでた。アキコちゃんはほっぺたをふくらませたけど、すぐ機嫌を直した。

「しかたないか。お兄ちゃんに送ってもらうといいよ」
「うん」

 コウキくんとはまだゆっくり話したことないし、ちょうどいいかも。

「じゃあお兄ちゃんの部屋に案内するねー」

 言うが早いがアキコちゃんは部屋から飛び出した。廊下の真ん中で振り返って私に手招きをした。私はナポレオンをボールに戻してついていった。コウキくんの部屋はどうなってるんだろう?アキコちゃんはドアをノックした。

―コンコンコン。

「お兄ちゃーん。ヒカリさん帰るってー。おうちまで送ってあげてー」

 足音がしたあとドアが開いた。

「お帰りになられるんですか?」
「うん。名残惜しいけど」
「わかりました。お送りいたしましょう」

 コウキくんが廊下に出られるように私とアキコちゃんは一歩下がった。好奇心に駆られてドアが完全に閉まるまえにそっと部屋を覗いてみた。白い壁紙に現代的なこげ茶のソファが栄えていた。机とイスはアンティークっぽく脚がスチールで出来ている。モダンでシック。コウキくんらしく落ち着いた雰囲気の部屋だった。

「お兄ちゃんの部屋はイギリスのヴィクトリアン風にしたの」

 アキコちゃんに耳打ちされた。部屋覗いたのバレちゃった。

「ヒカリさんを困らせてはダメですよ、アキコ」
「別に困らせてないもーん。ねー?」
 わたしはクスっと笑った。

 

***

 

 こうして私たちは玄関まで降り、アキコちゃんにお礼を言って別れた。コウキくんは私を家まで送るためついてきてくれた。途中でわがままを言ってフレンドリィショップに寄ったらコウキくんにモンスターボールを5個買ってもらっちゃった。ジュンはちゃんとボール手に入れられたのかしら?

 フタバタウンまで歩きながら、コウキくんにポケモン図鑑の使い方を教えてもらったけどポケモン図鑑ってすごすぎ!図鑑をポケモンに向けるだけでそのポケモンの名前と性別とレベルがわかるんだもの。さっきナポレオンに戦わせた鳥のポケモンとビーバーみたいなポケモンの名前も判明した。ナポレオンの経験地の糧となったポケモンムックルビッパっていうのね。ポケモンを捕まえたらもっと詳しいデータがわかるみたい。明日試してみよっと。

 空は見事な茜色に染まっていた。今日の夕食はなんだろう?限られた時間を楽しく過ごすため、わたしとコウキくんはポケモンや家族、将来の夢などを話していた。

「ママったらいつまでたっても本当の歳を教えてくれないの。ママは自分のこと30って言ってるけどそれじゃあ18の時に私を産んだことになるじゃない。いくらなんでも早すぎだって」

 確かにママは若々しいけどいくらなんでもありえない。うそつかないでって問いつめても「うそなんてついてないわよ」っていつも笑うし。

「ハハハ。大人の女性は歳を言いたがらないものですよ」
「ジュンママの36は普通だと思うけど…。コウキくんのお母さんは?」
「同じくらいじゃないですかね?失礼なので実際に訊いたことはありませんが」

 自分のお母さんにも歳を訊ねないなんて優しいな。落ち着いたコウキくんを見ていて急に自分が恥ずかしくなった。自分がとっても子どもっぽく感じたから。もっと真面目なことを話そうと話題を変えることにした。

「お母さんも研究者?家では見かけなかったけど」
「いえ、母は今は専業主婦です。おそらく買い物に出かけていたのでしょう。以前は父と共に博士の研究所で働いていたそうです。父とは大学で出会ったとか」

 なんてインテリなの!フタバタウンでは高学歴の人はあまりいない。田舎だしほとんどの人は親の職業を継ぐからだ。八百屋や文法具屋など個人経営の店の跡継ぎになるか、そうでなければ農場経営者とか。私のおじいちゃんは昔公務員だったみたい。そういえば女の人の職業ってここではあんまりないなぁ……。

「ボクの夢は父のような立派な研究者になることです。ヒカリさんは?」
「わたしは……」

 言葉につまった。自分が本当になりたいものなんてわからなかったから。ジュンでさえ「最強のポケモントレーナーになる」という夢があるのに。わたしはただ都会に出て素敵な恋をしたいだけ。そんな下心ありまくりの目標を言うわけにはいかないし……。わたしは肩をすくめた。

「なにになりたいかはまだはっきりわからないの。とりあえず今はチャンピオンを目指してみるわ」

 アキラもジュンもポケモンチャンピオンを目指していた。周りにチャンピオンを目指している人が多いせいかしら?わたしはチャンピオンにならなければいけないという妙な義務感があった。なにがなんでも、わたしはチャンピオンにならなきゃいけない。

 

あいつを見返すために……。

 

 えっ?

「ヒカリさんならなれそうですね」
「え?あ、うん。ありがとう」

 わたしはなんとか笑顔を作ってみた。なにかが心にひっかかる。あいつって……誰?わたしはいったい、誰を見返したいんだろう。

 

***

 

 そのあともあれこれ話していたらいつのまにか家の前まで来てしまった。時刻は5時18分。コウキくんは帰宅が遅れた理由とわたしたちの使命をママに説明すると言って残ってくれた。そういえばジュン以外の男の子を家に連れてくるのってひさしぶりかも。ママなんて言うかなぁ…。

―ピンポーン。

 複雑な気持ちで呼鈴を押した。家からシチューの匂いがする。パタパタ音がしたあとドアが開いた。

「おかえりーヒカリ。遅かったわね。あら、後ろの男の子は?」

 丸みを帯びたミディアムショートの美人ママがエプロン姿で迎えに来てくれた。

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「初めまして、ヒカリさんのお母さま。マサゴタウンナナカマド博士のお手伝いをしているコウキと申します。本日はヒカリさんを家までお送りにまいりました」

 コウキくんってやっぱり礼儀正しい。これで第一印象はバッチリね!

「ヒカリさんとは結婚を前提にしたお付き合いをしたいと思います」
「え?」

 ストップストップストーップ!会ったばかりでいきなりそれはないでしょー!!ただいまを言う暇すらない。

「あら。よくいらしたわね。ちょうどシチューができたところなの。さあ、あがってちょうだい」

 ママーー!なんで冷静なのー?さっきコウキくんが言ったこと聞こえてなかったのー!?

「いえ、ボクはただ挨拶しにきただけなので……」
「遠慮しないでくださいな。ご飯食べながら話しましょう。ね?」
「は、はあ……」

 コウキくんまで丸めこまれてるし。ママ天然だからなぁ……。ママに言われるがままわたしたちは家の中に入った。ママがお皿を用意してる間、コウキくんは電話を借りて家に連絡していた。ママの手伝いをしようとしたら断られちゃった。やることがないからしかたなくソファに座ってナポレオン、ことポッチャマをブラッシングしていた。だってさっきなでようとしたら拒否されちゃったんだもん。ポケモン図鑑によるとポッチャマはプライドが高いポケモンらしい。それにくわえてわたしのポッチャマはいじっぱり。機嫌の良いときとわたしが落ち込んでるときだけなでさせてくれるみたい。うーん。

「準備できたわよ~」

 ママに呼ばれた。わたしはブラシを置いて手を洗いに行った。

「よかったわね、ヒカリ。お婿さん候補が2人になったのね」

 うっ。わたしは危うくジャガイモを喉につまらせてしまうところだった。いただきますと言ったあとの開口一番の言葉がこれ。ママ、コウキくんの結婚前提の話ちゃんと聞いてたんだ。

「2人?もう1人いるのですか?」

 コウキくんは眉をひそめた。ナポレオンとヒコザルはわたしたちのことなどおかまいなしにシチューを食べ続けている。

「ええ。別にあなたでもいいんだけど、わたしはジュンくんをお勧めするわ」
「なっ!?」
「えぇー!?」

 私は声をあげた。冗談じゃない!なんで!?ジュンのこときらいじゃないけど、少し迷惑だわ!

「お母さまはなぜ彼を……?」

 コウキくんと私のスプーンを取った手は止まっていた。ママとポケモンたちだけあいかわらず手を動かしている。

「ウフフフ。知りたい?だって……」

 話の途中なのにママはシチューを口にした。わたしたちはまじまじとママを見た。お肉なんて頬張ってないで早く答えてよ。

「そのほうが面白いじゃない」
「「は?」」

 肩の力が一気にぬけた。なにそれ?

「ジュンくんなにするかわからないでしょ?ジュンくんといれば一生退屈することなんてないと思うの」
「は、はあ……」

 コウキくんは困惑していた。ママと会ってからペースをみだされっぱなしだ。むぅ~。ママの言うことにも一理あるけど、退屈しないかわりにわたしの寿命が縮むわよ…。ジュンったら無茶ばっかりするんだから。

「まあ、最終的に決めるのはヒカリだけどね」

 ママは手を休めることなくシチューを食べ続けた。ボールの中のシチューはもう半分以上減っている。ポケモンたちはすでに食べ終わっていてソファで横になっていた。わたしも早く食べよう。

 

***

 

「で、どうしたの?ヒカリ。コウキくんを紹介するためだけに連れてきたんじゃないでしょ?」

 テーブルを拭きながらママは訊いてきた。いつもおっとりしているのに変なところでするどい。

「ママ、おどろかないでね。実は……」

 わたしは博士にお礼をしにいったら頼みごとをされたこと、コウキくんの家にあがって帰るのが遅れたことを話した。博士の頼みごとの内容はコウキくんが詳しく説明してくれて、わたしの帰りが遅くなったことを謝った。こんなにすごいことを話しているのにママはあまりおどろかず、感心して聞いていた。

「そう!ナナカマド博士からそんなすごいことを頼まれたの」
「うん。明日から旅に出ようと思うの」
「コウキくんと一緒に?」

 ママ……この時世に血の繋がってない年頃の女の子が男の子と旅するわけないでしょ。マンガやアニメとは違うんだから。

「いえ、効率よくするため二手に分かれます」
「あらそう。よーし!がんばれー。ママ応援しちゃうから」

 うーん。ママが驚いている姿なんて見たことないから、今度こそおどろくかもしれないとちょっと期待したのに。

「止めないの?」
「楽しそうじゃない。そうだ!ヒカリ。いいものあるから持っていきなさい」

 ママは自分の部屋に入るとノートを持ってきた。

「冒険ノートよ。シンオウ地方ポケモンの分布を調査するんでしょ?ならヒカリ自身もノートに旅の出来事を記録するべきよ!」

 そっか。大事な研究だもんね。ポケモン関連の話なら、どんなに些細なことでも書いておけば博士の役に立つかもしれない。でもポケモン関連の出来事なら別のノートにレポートを書いたほうがいいかしら?

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「そうね。日記代わりに使うわ」
「いーなー、冒険の旅。しかも1人じゃなくてポケモンと一緒でしょ?ママが行きたいぐらい……なんてね! うん!ヒカリ。ママは大丈夫だから思いっきり旅を楽しんで!」
「お父さまには伝えなくてもいいのでしょうか?」

 傍らで話を聞いていたコウキくんが口をはさんだ。

「パパは大事な仕事があって今は町にいないの」
「そうですか」

 コウキくんは納得したけど、正直私はパパのことは全くわからない。姿はおろか、名前すら知らない。ママに訊いても「ひ・み・つ♪」っていつもはぐらかされるし。

「ヒカリ、あなたが色んなことに出会って色々感じることがママのハッピーになるんだから!」
「うん」
「でもときどきは帰ってきてよ。あなたがどんなポケモン捕まえたかママも知りたいし。あとパパに会ったらよろしくね」
「わたしたちをずっとほったらかしているのに?」

 私は口をとがらせた。パパの写真なんて一枚も見たことがない。ママと町の大人の話によるとめちゃくちゃかっこいいということくらいしかわからない。会えばわかるかしら?今頃ジュンパパと同じように渋いナイスミドルになってたりして。

―ガタッ。

 コウキくんが椅子から立ち上がった。時計は6時を指していた。

「ではボクは帰ります。夕食までご馳走してもらいありがとうございます。シチューおいしかったです。ご馳走さまでした」
「あらあら。もうこんな時間?色々説明してくれてありがとう。またいらしてね」

 ママがコウキくんのためドアを開けたら、2人はふと止まった。どうしたんだろ?

「すみませ~ん、アカリさん。こちらにジュン来てます?」
「えっ?来てないけど……」

 家の前まで来ていたのはジュンママだった。

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「そうですか~。じゃあもう行っちゃったんだ。困ったなあ…。あの子『オレ冒険するから!』ってそれだけ言って飛び出しちゃって」

 ハァ~。わたしは大きく息をついた。興奮したジュンはあのあとすぐ冒険しにいったみたい。わたしがコウキくんの家にお邪魔している間に旅立ったのかしら。

「向こう見ずで無鉄砲だから地図だけは渡しておきたかったのに」
「大丈夫。ヒカリが届けてくれるわ。ね!ヒカリ」
「うん」

 昔から忘れものが多かったけど冒険のときまで迷惑かけないでよ、ジュン。

「そお?じゃあお願いしちゃっていい?ヒカリちゃんこれジュンに届けてね」
「明日旅に出ますから会ったら渡しておきます」

 わたしはシンオウ地方の地図の入った封筒を受け取った。

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「悪いわねえ……たぶんまっすぐコトブキシティに向かってると思うけど……。じゃあジュンのことよろしくねぇ」

 ジュンママは帰ろうとしたらコウキくんの存在に気づいた。

「見かけない子ね。どなた?」
「初めまして。ジュンくんのお母さまですね。ボクはヒカリさんを守るプリンス、コウキです」
「は、はあ……」

 話をややこしくしないでよ!ジュンママまでため息ついでるじゃない!

「悪いけどヒカリちゃんはうちの息子が頂くわ。あの子、女の子には人気ないのよ。あなたはまあまあかっこいいし、頭も良いでしょう?女の子ならほかでも見つけられるからヒカリちゃんはうちに譲ってくれない?」

 ……なんでこの家には空気を読めない人たちがこんなに集まってるの?みんな何気にわたしの意見無視してない?

「誠に失礼かもしれませんが、ジュンくんがヒカリさんを幸せにできるとは思いません」
「はあ。それもそうね。がんばってね」

 ゆるっ!

「それじゃあまたねえ、アカリさん」
「おやすみなさ~い」

 ジュンママはあくびをしながら帰っていった。ママはジュンママをニコニコ見守っている。コウキくんはポカーンとしていた。

「本当に彼女はジュンくんの母親ですか?」
「うん。たぶんジュンママがのんびりしてるから、ジュンはせっかちに育ったんだと思う」

 親の影響、恐るべし。

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