ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第8話 安らぎ

 ジュンがいなくなると湖は静まり返った。ポッチャマは気を取り直して湖で泳いでいた。涼しくてきれいで落ち着く場所。これが本来の湖の姿。でもさっきまでジュンがいたから静かすぎて逆に変。さっきの謎の光も気になる。それ以外にも落ち着かない理由があるんだけど……。

ポッチャマ

 話し相手がほしくてポッチャマに話しかけた。と、言ってもポッチャマは人間の言葉なんて話せないからどっちかっていうと聞き手になるけど。

「ポチャ?」

 ポッチャマは泳ぐのをやめた。泳ぐのを邪魔されたのを怒っている様子はない。ジュンがいなくなったから機嫌がいいのかしら?

「わたしね、実は水ポケモンより炎ポケモンが好きなの」
「ポチャッ!?」

 ポッチャマはまばたきした。うっ。ショック受けてる。ごめんね……。

「本当はヒコザルがほしかったの」
「ポチャチャー?!」

 ポッチャマは右手を胸にあてた。ボクのどこが悪いんだよ、と言っているのかもしれない。

「ポチャ!ポチャ!ポチャーー!」

 言いかたがわるかったのかしら。ポッチャマは見るからにご機嫌ナナメだ。

「わたし……水が恐いの」
「ポチャ?」

 ポッチャマは騒ぐのをやめた。そうなの。私……水恐怖症なの。日常に使う程度の水なら平気。顔も洗えるし、お風呂だって入れる。ただ湖のような水がたくさんある場所が苦手。足が浸かるくらいなら平気だけど、腰までつかるのはイヤ。私の肩を越える量の水は勘弁してほしい。湖はキレイで空気がおいしいけどやはりどこか落ち着かない。

「泳げないから水が恐いんじゃなくて、水が恐いから泳げないの」
「……」

 ポッチャマはだまって私を見てる。怒ってはいない……はず。

「別に水ポケモンがキライなわけじゃないのよ?ただ水がたくさんある場所が苦手なだけ。海なんて見たくもない。だって、海の中は暗くて冷たいイメージがあるもの」

 深海なら実際にそうかもしれない。深海どころか浜辺にも行ったことないからわからないけど。私が知っている世界はワカバタウンとシンジ湖だけ。

「だから水は苦手。明るくて、暖かい炎ポケモンが好きなの」
「ポチャ~」

 ポッチャマはぺたんと座り込んだ。落ち込ませちゃったかな。

「でもペンギンは好きよ」
「ポチャッ!」

 ポッチャマはむくっと起き上がった。わかりにくいようでわかりやすい子ね。

「あこがれの人がいてね、昔ペンギンのぬいぐるみをくれたの」

 

***

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 アキラがワカバタウンを去って1ヵ月。アキラが来るまえの平凡な日々が続いて私は退屈していた。なにもする気になれない。今日はリビングでゴロゴロしていた。

「イ~モ~む~し~ゴ~ロゴロ♪」

 わたしは体を回転させた。文字通り寝転がっている。ママは台所でおやつを作りながら話しかけてきた。

「こらこら~。ヒカリ。芋虫ごっこしてないで外で遊んだら~?」
「おそとであそんだらアキラのおてがみうけとれないも~ん」
「ちゃんと私が受け取るから」
「じぶんでうけとりたいの~」

 わたしはほっぺたをふくらませた。好きな人からの手紙は自分の手で配達員から受け取って自分の手で開けたかった。

―ピーンポーン。

 ガバッと起きた。この1ヶ月間呼鈴が鳴ったら体が即座に反応するようになってしまった。わたしは玄関へ走った。今度こそ郵便配達のお兄さんがアキラの手紙を持ってきてくれますように……!

「ヒカリ~。ドーナッツ揚げてるからかわりに出てくれる~?」

 ママの言葉が終わるころにはわたしはドアのまえにいた。ドキドキしながらドアをゆっくり開けた。青いスーツに青いキャスカット風の帽子。わたしのほしいものを持ってきてくれたかどうかはわからないけど、とりあえず郵便配達のお兄さんは来てくれた。

「こんにちはー。ヒカリちゃん」
「アキラのおてがみある~?」

 わたしはせがむようにお兄さんのズボンをつかんでひっぱった。アキラが去ってからというものほぼ毎日お兄さんと顔を合わせている。

「おてがみはないなー」
「え~!?」

 わたしはヘナヘナと座り込んだ。毎日毎日同じようなやりとりをくりかえしている。ガッカリするのはなれたけど、今回ばかりは泣きたくなった。

「でもお手紙よりいいものを預かってきたよー」

 お兄さんのズボンから手を放した。どんなにステキなプレゼントでもアキラからもらったものじゃないと意味がない。わたしは期待せずにお兄さんから箱を受け取った。

「うわっ!?」

 足元がふらついた。箱は思っていたより重かった。苦労して床に降ろすと差出人の名前が目に入った。

 

宛先:花園ヒカリ
差出人:黒崎アキラ

 

「アキラからだ!」

 わたしは両手をあげてバンザイした。アキラは手紙よりもずっといいものを送ってくれた。でもそれ以上にアキラがわたしのことを覚えていてくれたことがうれしかった。私はお礼にハンコを押した。

「お兄さんありがとう!」
「ハハハ。よかったねー。それじゃあお母さんによろしくー」

 郵便配達のお兄さんは帽子を片手であげると次の配達先へ向かった。わたしはドアを閉めた。半ばひきずるようなかたちで箱をリビングに持っていくとラッピングを乱暴にはがした。いつもなら丁寧にはがして一枚一枚とっておくけど私は急いでいた。

「あらあら、そんなに興奮しちゃって……。アキラくんからなにか届いたの?」
「うん!」

 わき目もふらず私はラッピングを破り続けた。早く中身が見たくてしかたなかった。めんどうなラッピングを全部はがして箱を開けてみると、中にはペンギンのぬいぐるみと本が入っていた。空色の便箋がぬいぐるみに持たせるように置いてあった。

「あら。手紙?読んであげよっか?」

 ママが手をのばすまえに手紙を取った。でも漢字も使われているから上手く読めない。

「……よんで」
「はいはい」

 くやしかったけどママに手紙をわたした。次からはアキラの手紙を自分で読めるように漢字を勉強しようと決めた。まだ小学校にも入っていなかったけど。

 

ヒカリへ
 
 元気にしてるか?オレは順調だ。ヒコザルは進化してますます強くなった。今ヨスガシティにいる。とてもオシャレな町だ。かわいいぬいぐるみが売っていたからヒカリのために買ってみた。オレには似合わないからな。

 道具を整理していたら昔使っていた教科書が見つかった。オレはもういらないからヒカリにやる。それでポケモンの勉強をしてくれ。ジョウト地方のやつだが基本は同じだ。ポケモンの知識はいつか旅に出るとき必ず役に立つ。

 次はいつ会えるかわからない。ぬいぐるみによってヒカリが寂しくならないことを祈る。またな。

アキラ

 

 ぬいぐるみと手紙をもらったときとっても嬉しかった。ペンギンを知らなかったわたしはわくわくしながら動物図鑑で調べた。わたしと違って泳げるペンギン。海もシャチも恐れずに泳ぐペンギン。勇敢に泳ぐペンギンの姿をテレビで見てからペンギンはわたしの一番好きな動物になった。アキラからもらったあのペンギンのぬいぐるみはまだベッドの上にある。今朝はついジュンに投げつけちゃったけど、とっても大切なぬいぐるみ。


***

 

「アキラっていう男の子なんだけど、ヒコザルを持っていたの。とてもかっこいい人。わたしの好きな炎ポケモンを持ってたからあこがれてて……私もヒコザルを選びたかったの」
「……」

 ポッチャマはうつむいている。キズつけちゃったかしら?

「でもそれじゃダメだと思ったの」

 ポッチャマは頭を上げた。

「アキラのように強くなりたいけど、アキラのマネなんかしたくない」

 わたしはわたしだ。わたしにはわたしの道がある。

「それで、ペンギンのぬいぐるみのことを思い出してあなたにしたの。アキラと戦えるように……ヒコザルに対抗するために、水ポケモンのあなたを」

 わたしはポッチャマの前でかがんだ。

「水は恐いけど……逃げてばっかりじゃ駄目だから。いつか水に対する恐怖を乗り越えてみせるわ。でも………もし私がおぼれたら、……そのときは助けてくれる?」

 わたしは両手を差し伸べた。ポッチャマは下を向いているので表情が読み取れない。

「ポ、ポ、……ポッチャー!」
「キャッ!?」

 ポッチャマは私の腕の中に思いっきり飛び込んできた。ポッチャマの悪気のない『体当たり』にわたしは倒された。みぞおちに当たったので息がつまって苦しい。こ、これは予想外ね……!顔を覗き込むとポッチャマの目がうるうるしているのが見えた。

「ポチャ!ポチャポチャー!ポッッチャッマ!」

 感激してるみたいだけどなに言ってるかわからないよ、ポッチャマ

「ありがとう、ポッチャマ

 わたしはそっとポッチャマの頭をなでた。

「ポチャポチャ~」

 ポッチャマは目をふいているあいだも片手は私の服をつかんでいた。……どうしよう。ワンピースがポッチャマの涙と鼻水でますます汚れちゃった。帰ったら着替えようかしら。

「ポチャ、ポチャ……」

 しばらくポッチャマと抱き合っていたらようやく泣き止んできた。

ポッチャマ、そろそろ離れてもいい?」

 わたしはポッチャマと目を合わせた。

「ポチャーーッ!」

 ポッチャマは急に叫んだかと思ったら私をつきとばした。

「キャッ!」

 わたしはまた地面に倒れこんだ。もう。なんなのよ?

「ポッ、ポポチャ、ポチャチャチャチャ、ポチャ、ポッッチャマ!」

 ま、まさか……『べ、べつにあんたのこと認めた訳じゃないからね!』って言ってるの!?……なんていじっぱり!

「はいはい。わかったわ。同情しただけね。でもありがとう。これからもよろしくね」

 しゃがんだままポッチャマに握手を求めたけどそっぽを向かれた。ある意味ジュンより扱いにくい。

「汚れた服で博士に会いに行ったら失礼だから、いったん家に戻ろっか」
「ポチャッ!?」

 立ち上がろうとしたらポッチャマに手を握られた。顔はそむけたままだったけど…………もしかして服を汚したことに責任を感じたのかしら?

 わたしはポッチャマの手を握り返したけれど、ポッチャマはすぐ手を引っ込めてしまった。ぎこちない握手。まだわたしたちの間にはまだ距離があるけど、いつか離れ離れになれないくらいにちぢめてみせるわ!ひとしきり笑ったあと私は立ち上がった。

「それじゃあ、行きましょっか」

 着替え終わったらマサゴタウンに行って、博士にお礼を言わなきゃ!

 

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