ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第7話 思い出の湖

「あの湖にはきっと伝説のポケモンがいる!」

 ジュンは息巻いていた。私たちは今シンジ湖に向かっている。でも私たち2人が湖に行く理由は異なっていた。ジュンは博士のために伝説のポケモンを捕まえるため。私はジュンに付き合わされてしかたなく……ね。

「みんな『ただの伝説だよ』って言ってるけどオレにはわかるのさ」

 確かに私とジュンが襲われたとき、コウキくんと博士は湖のほうからやってきた。研究者が調べにくるくらいだから、伝説のポケモンもいるかもしれない。

「そうね。伝説のポケモンにちなんだ恋のおまじないもあるし」

 でもシンジ湖に住むと言われている幻のポケモンに関する情報は少ない。湖の看板にも本にも詳しく書かれていない。わたしたち地元民の間でかろうじて伝えられているのはおまじないだけ。覚えている記憶を頼りに私はおまじないの伝承を口にした。

「ほら。『真夜中の12時。湖のほとりにて、桃色の花の冠と指輪を身に付けた男女。口づけを交わしたのならば、精霊の加護のもと二人は永遠に喜びと悲しみを共有する』ってやつ」

 どこにでもあるただのおまじない。小さいころ幼稚園の先生が教えてくれた。ママも昔パパとやったことがあるって言ってた。

「なつかしいよな~。5歳のときやったっけ」
「そうそう……はっ!?」

 体の血の気がひいた。……ヤダ。思い出しちゃった。私ジュンとファーストキスしたんだ!!よりによってこんなバカと!急に体が熱くなった。さっき体が冷えたばっかりなのに。汗がドンドン出てくる。たぶん今の私、顔真っ赤。

「おい!ヒカリ!どうしたんだ!?顔赤いぞ!熱でもあるのか?」

 ジュンの声が遠ざかる。やっぱり……今のわたし……真っ赤っか…………。

 

***

 

「ヒカリ!おおきくなったらケッコンしようぜ!」
「やだ」

 私はつないでいた手をはなした。幼稚園からの帰り道。2人で歩いていたらジュンがいきなりプロポーズをしてきた。

「なんだってんだよー!ケッコンしようぜ。オレ、ヒカリのことだいすきだぞ!」
「やだ。だってジュンとケッコンしたらジュンのめんどうず~っとみなきゃいけないんだもん。そんなのやだ」

 立ち止まったジュンを気にせず歩き続けた。ジュンはあわてて私についてくる。もやもやした気持ちがして足元の石を蹴ってみた。石はまえに転がったけど、私の気持ちはちっとも晴れなかった。

「そんなことねーよ。らくさせてやるぜ?」

 ジュンに腕をつかまれた。

「いいからケッコンしろっていったらしろー!」
「やーだー!」

 

***

 

 ……う~ん。やだ……私ジュンと結婚したくない…………ん?なんかおでこがひんやりしてきた。気持ち良い……。

「ポチャ?」

 わたしはゆっくり目を開けた。はっきり見えないけど青くて丸っこいものがいる。

「ポッ……チャ……マ……?」
「ポチャー!?」

 ポッチャマが飛び上がった。目が点になってあたふたしている。びっくりしたのはこっちよ!一発で目が覚めたじゃない!

「お!ヒカリ!気がついたのか?」

 ジュンの声が聞こえた。私は周りを見渡した。風が涼しくて心地良い。緑があちこちに生い茂っている。うしろを向いたらジュンと湖が見えた。ナエトルは湖に漬かっている。ここってシンジ湖?

「急に倒れたからおどろいたぜ。フタバタウンよりシンジ湖のほうが近かったからここまで運んだんだ」

 そっか。私、気絶しちゃったんだ。私は地面にあったハンカチを拾った。水で濡れている。きっと私のおでこに置いてあったのね。さっき起き上がったとき落としたみたい。

ポッチャマのやつ、おまえが気絶したらボールから出てきたんだぜ?湖に着いたあともずっとおまえの看病して……」

―ガッ。

 ジュンはポッチャマにすねを蹴られた。

「いってー!」
「ポチャッ」

 ポッチャマはぷいっとわたしからもジュンからもそっぽを向いた。

「ポッ、ポポチャ、ポチャチャチャチャ、ポチャ、ポッッチャマ!」

 え?ま、まさか……『べ、べつにあんたのためにやったんじゃないからね!』って言ってるの!?

「なんだってんだよー!」
「ポチャチャー!」

 ポッチャマは腕をパタパタさせながらジュンにつっかかった。……ツンデレよ。このポッチャマ、完全にツンデレよーーー!

「わかったよ。わりいって」
「チャマ!」

 2人……じゃなくて1人と1匹の話はついたみたい。ナエトルはあいかわらず水辺で涼んでいる。

「まあ、飲めよ」

 コップを渡された。きっと湖の水だ。湖の水はとてもキレイで飲みやすいもの。そのまま飲めるくらい。おかげでフタバタウンは天然水の生産地として成り立っている。水を飲んだら生き返った気がした。この湖の水を飲むといつも元気が出る。伝説のポケモンが棲んでいるからかしら。

 はぁ。それにしても……ああ、はずかしい。今はっきり思い出した。昔ジュンにプロポーズされた日にケンカしたんだ。あのときムカついて1週間ぐらいジュンを無視したっけ。しばらく遊ばなかったけどつまらなくなって仲直りの証に例のおまじないやったんだ。ママたちに内緒で。

 眠い目をこすって11時に懐中電灯を持ってこっそり家を出た。湖に着いたあと桃色のお花を取ってかんむりを編んだ。ジュンも不器用なのに私のためにがんばっていっしょにお花の指輪を編んでくれた。ただくちびるを押しつけあうだけのキスをした直後にママたちが駆けつけてきた。結局ママとジュンママとジュンパパにバレたけど、怒られるどころか祝福されちゃった。今考えてみるとよく仲直りのためにあんな無茶したわね。幼稚園児で夜更かしだなんて。あのときは我ながらがんばったなぁ……なんで思い出しちゃったんだろう。はずかしい……。

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「おまえチャンピオンって知ってる?」
「え?」

 ジュンがいきなり話しかけてきた。ポッチャマナエトルと水遊びをしている。

「そう呼ばれるすっごく強いポケモントレーナーがいるんだ!オレもいつかチャンピオンと戦えるぐらい強くなる!こいつと一緒なら絶対に強くなれるぜ!」

 ジュンはナエトルを指さした。肝心のナエトルポッチャマに水を浴びせられまくっていた。雪合戦とかしたら確実に負けそう。

「チャンピオン……」
「そうだよ!そんでもって親父とポケモン勝負で勝つ!」

 チャンピオン…………本で読んだことある。アキラも言ってた。…………そうよ。私、チャンピオンにならなきゃ。

 

『女はチャンピオンになれねーよ』

 

 昔誰かに言われた気がする。あのときはとてもくやしかった。そう言ったのは、誰だったっけ……?

「じゃあわたしたちライバルだね」

 いやな思い出をかき消すように笑った。今日は色んなことをよく思い出す日ね。

「なんだよ!おまえもチャンピオン目指してるのか?負けないぞ!」
「わたしもよ」

 2人で笑った。ポッチャマを見たらナエトルの上に乗っていた。あんなのんびりしてるパートナーで私に勝てるかしら?ジュン。

―ピカッ。

「「!?」」

 湖の真ん中にある小島が突然光った。私はとっさに腕で顔をおおった。………目をつぶるのが遅かった。まぶしくてなにも見えない……!

 

―きゃううーん!

 

 ポケモンの鳴き声がした。心に直接響くような綺麗な鳴き声。

 

楽しい。

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憎い。

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愛しい。

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悲しい。

 
嬉しいけど切ない……!

 

 色んな感情がわきあがってくる。そんな声だった。

「うっ」

 光はすぐに消えた。目がチカチカする。

「今の聞こえたかヒカリ!」
「うん」
「絶対伝説ポケモンの鳴き声だよ!やっぱりいるんだよ!」

 だいぶ目が慣れてきた。ポッチャマナエトルから落ちていた。2匹とも小島に釘付けだ。

「よーしっ つかまえよーぜ!……!……って あれーっ!?」

 ジュンはバッグの中をあさった。

「ない……ない……ない!」

 やっと私が買おうとしたものがないってことに気づいたみたい。

「オレたち1個も持ってないじゃん!モンスターボール!!あれがないとさ、伝説のポケモンもつかまえられないじゃん!」

 あ~あ。やっぱりモンスターボール買ってなかったんだ。

「だから私マサゴタウンに行こうとしたのよ。モンスターボールを買いに。なのにジュンったら私をひっぱって……」
「うーん……ナナカマド博士に聞けばもらえるかなー!?」

 って話聞いてないし!

「ほら、博士も言ってただろ?なにか困ったときは研究所に来るといいって!」
「でもポケモンもらったばかりなのにボールまでくれって失礼じゃ……」
「よーしッ!ヒカリ!博士のいるマサゴタウンまでどっちが先に着くかしょーぶ!!」

 ジュンはナエトルをボールに戻すと走っていってしまった。……と、思ったらバックしながら戻ってきた。

「消毒忘れたーーー!」
「は?」

 消毒?ジュンったら消毒液持ってたの?インフルエンザ対策に。

「ヒカリ!こっちこい!」
「なによ?」

 湖まで無理やりひっぱられた。今日はジュンに腕をひっぱられっぱなしだ。そのうち私の腕、外れたりないよね?ジュンの腕の力が強くなったから心配。

「ふう。危うくヒカリの手を消毒し忘れるところだったぜ!」

 ああ、そのことね!コウキくんにキスされちゃったのよねー♡……って消毒?

「コウキくんはバイ菌じゃないのよ!失礼じゃない」
「あいつのバカがうつるかもしれないんだぞ!」

 うつらないわよ。そもそもコウキくんバカじゃないし。仮にコウキくんがおばかウイルスを持っていたとしても私にうつるはずないじゃない。ジュンと長い間一緒にいてもバカにならなかったのが証拠よ。きっと私、ジュンと一緒にいるうちにおばかウイルスに対して免疫ができたのね。

「アブラカタブラ~♪伝説のポケモンよ~」

 ジュンは腕をくねくねさせてうさんくさい呪文を唱え始めた。……やめてよ。はずかしいじゃない。

「コウキによって~汚れたヒカリの手を~清めてくれたまえ~♪」

 スミマセーン。誰かジュンの中にあるおばかウイルスを撤去してくれたらいいのに。ジュンはくねくねダンスを終えるとコウキくんにキスされた私の手に湖の水をかけた。まるでキリスト教の洗礼だ。

「よし!これでカンペキだな。じゃあ先に行くぜ!」

 ジュンはあっというまにいなくなった。今度こそ本当に私とポッチャマは湖に取り残されてしまった。

 

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