ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第6話 あわただしい昼

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 わたしとジュンは間合いを取るために数歩下がった。これが記念すべき初めてのポケモンバトルになる。…………不思議なことに私は冷静だった。今まで何度もしてきたように、対戦相手と向き合った。

「……ポチャ」

 ポッチャマナエトルに向かって「来いよ」と手招きをした。戦う前からやる気満々ね……。

「ル~?」

 ナエトルは目をパチパチさせた。ポッチャマの挑発を理解できなかったみたい。

「おし、これくらい距離を取れば十分だろ」

 ジュンは鼻から息を出すと腕を組んで得意げに言った。私に勝つ気でいるみたい。

「負けたら500円な」
「かまわないわ」

 バトルが終わったら敗者は勝者に手持ちのお金を10分の1を渡すのが決まりだ。その決まりのおかげで腕のいいポケモントレーナーは働かなくてもいいくらい。……でも今わたしお財布持ってないのよね。家を出るとき急いでたし、まさか本当にポケモンもらえるとは思わなかったもん。でも負けるつもりはなかった。

 ジュンは知らないかもしれないけどわたしはアキラと出会ってから独学でポケモンを勉強した。だからポケモンの知識には自信がある。ポッチャマが入っていたボールを見た。後ろ側にシールが貼ってある。シールにはポッチャマの簡単なデータと使える技が書いてあった。

 

ポッチャマ Lv.5

ペンギンポケモン
高さ0.4m
重さ5.2kg

覚えている技
・はたく
・なきごえ

 

 ………やっぱり最初は使える技が少ないなぁ。ジュンにもシールのこと教えてあげなきゃ。

「ボールにポケモンが覚えている技が書いてあるシールがついてるわよ」
「おっ。サンキューな、ヒカリ!」

 さっそくジュンはボールをまじまじと見つめた。……まさか覚えている技も知らずにポケモンに戦わせるつもりだったの?ジュンはシールを拝見したあと財布からお金を取り出した。

「この500円玉が落ちたら勝負開始な」
「うん」

 ジュンは500円玉を親指ではじいた。

―ピーン。

 キレイな音が広場に響く。

 お金が宙に浮くと落下しはじめた。そのままお金がジュンの手を通りすぎる。やがて太ももまで落ちてきて、最後は地面に落ちた。

―チャリーン。

 わたしたちのポケモンバトルは静かに始まった。まずは小手調べ……!

ポッチャマ、『鳴き声』!」
「ポチャア♪」

 ポッチャマは普段のツンツンぶりからは想像できないくらいかわいく鳴いた。『鳴き声』はかわいい声で相手の同情を買い、攻撃力を下げる技。少しは効果があるといいけど。

ナエトル、『からにこもれ』!」

―キュポンッ。

 ナエトルは頭と手足を引っ込めたけど少し遅かった。ポッチャマの『鳴き声』で攻撃力は下がったはずよ。

「やるじゃない」

 わたしはジュンをほめた。こっちがこうきたらそっちはそうきた。殻に籠もったポケモンは防御力が上がる。しょっぱなからお互い防御に専念したわけね。ジュンのことだからなんの考えもなしに突っ込んでくるかと思ったらそうでもないみたい。少しは考えてるのね。

ポッチャマ、『はたく』のよ!」
「チャッ!」

―バシッ。

 ポッチャマは様子を伺うために頭を出したナエトルを容赦なくはたいた。

「ル~~」

 ナエトルは悲しそうな声で鳴いた。うっ……ちょっとかわいそう。

「なんだってんだよー!いいのくれるじゃないか!ナエトル、『体当たり』!」

 ナエトルは『からにこもる』のをやめて攻撃してきた。

―ガッ。

「ポッ!?」

 ポッチャマはおなかに体当たりを喰らった。

ポッチャマ!」

 ポッチャマは苦しそうにせきこんだ。私のさっきまで感じていた後ろめたさは消えた。ナエトルにはわるいけど勝たせてもらうわ!

「相手の手足を『はたいて』!」
「ポーッチャアッ!!」

―バシッ。

「ルッ!?」

 ナエトルはバランスを失ってひっくり返った。甲羅を裏返されたのでジタバタしている。

「しまった!からにこもれ!」
「そのまま『はたく』のよ、ポッチャマ!」

―バシッ。バシッ。バシッ。

 ポッチャマの猛攻撃は続く。ナエトルは防御せざるをえない。

「くっそ~。『からにこもる』『からにこもる』『からにこもる』~!」

 ジュンの命令は一見ヤケクソに聞こえるけどそうでもない。ナエトルは防御に徹しているせいでポッチャマの攻撃は最初の攻撃ほど効いていない。このままナエトルがひっくり返らない程度に『はたいて』体力を減らせば私の勝ち。だけどポッチャマも与えるダメージが少なくなっているのに気づいてイライラし始めた。

「ポ~ッチャー!」
「ダメっ!ポッチャマ!」

―バッシーン!

 止めるのが遅かった。我慢できなくなったポッチャマナエトルを思いっきり叩いた。その反動でひっくりかえしたナエトルの体制が直ってしまった。

「ル~」

 ナエトルは4本の足で大地を再び踏みしめると、頭を左右にふった。

「まだまだ!まだ戦える!ここからが本番だぜ!!」
「くっ……」

 ナエトルポッチャマは距離を取って再び向きあった。のんびりやのナエトルもやる気になったのかけわしい顔をしている。今にも2匹の間に火花が飛び散りそう。

「はたいて!」
「『体当たり』!」

―ダッ。

 2匹はすれ違いざまに攻撃しあった。でも明らかにポッチャマの受けるダメージのほうが大きい。だからといって今さら『鳴き声』を使って防御にまわる余裕はない。攻めて攻めて攻めまくるわ!

 2匹の攻撃は続く。『はたく』。『体当たり』。『はたく』。『体当たり』。ずっとその繰り返し。

「さっきから同じ技ばっかじゃねーか」
「そっちこそ」

 ポッチャマナエトルもだいぶ息があがっている。そろそろ限界だ。

「これで最後だぁ!体当たり!」

 ナエトルポッチャマに向かってダッシュした。そうは簡単にやられないわよ!

ポッチャマ、よけて!」
「今さらよけられるかよ!」

 ナエトルが走ってくるのにポッチャマはよけようとしなかった。それどころかその場に踏みとどまって構えを取った。ナエトルにぶつかる……!そう思ったときポッチャマは近づいてきたナエトルの頭に手を当てジャンプした。

「なにぃ!?」

 半円を描きながら宙に浮かぶポッチャマ。その動きは跳び箱を跳ぶより軽やかでキレイだった。……はっ!?今よ!

「そのまま『はたく』のよ!」
「チャーッ!」

―バシーンッ!!

 会心の一撃だった。落下スピードも加わった攻撃でナエトルは声も出さずに倒れた。ジュンはあわててナエトルに駆けよった。ナエトルを色んな角度から見ているけど、どう見たってナエトルは戦闘不能だ。

「なんだってんだよー!オレ負けちまったのかよ!」
「まあね。おつかれさま、ポッチャマ

 ジュンと私は同時にポケモンをボールに戻した。危なかった。ギリギリで勝ったけどポッチャマもヘトヘト。わたしの初陣は勝利で終わった。

「ふー。家に帰ろうぜ。今の勝負で疲れたポケモンを休ませないとな」
「そうね」
「バイバイ!ヒカリ」

 そう言ってジュンは先に帰ってしまった。わたしはジュンの残した500円玉を拾ったあと帰路についた。

 

***

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「……で、なあに?」

 ママは台所でパスタをゆでている。お湯が規則正しくグツグツ音を立てていた。もうすぐお昼の時間だ。家にはいつものようにわたしとママしかいない。……なんて平和な時間。さっきまでのゴタゴタが嘘みたい。

「ママ、実はね……」

 固く結んでいたくちびるをほどいた。わたしはこの数時間で起きた出来事をママに話した。草むらを走ったら野性のルクシオに襲われたこと。コウキくんに助けてもらったこと。博士からポッチャマをもらったこと。ジュンとポケモンバトルをしたこと………こうして話してみると、ここ数時間で色んなことがおきたことに気づいた。ママはわたしの話を静かに聞いてくれた。時折驚いた顔でわたしを見たけど、落ち着いてパスタをお湯から取り出した。今はパスタをクリームソースと混ぜている。

「そんなことがあったんだ。あなたもジュンくんもナナカマド博士に会えて良かったね」

 ママはテーブルに出来たてのパスタを3つ置いた。ダイニングルームに濃厚なクリームの匂いがただよう。

「うん……」

 わたしはうつむいたまま答えた。話の途中で「すわったら?」とママに勧められたので今はイスに腰かけている。ママと目を合わせられない。パスタを食べる気にもならない。ママはエプロンをはずして私の向かいの席にすわった。

「でももしコウキくんが来なかったら2人とも草むらでポケモンに……」

 体がビクッとした。わたしはママの言いつけを守らなかった。私はわるい子だ。

「ごめんなさい……」

 目が必要以上にうるおった。……涙が出そう。

ポッチャマだっけ?ヒカリのもらったポケモン……見せてくれる?」
「……」

 わたしはだまってママの要望に答えた。ずっと手に持っていたモンスターボールのスイッチを押した。

―ボムッ。

 ボールが開いて光ったあと、プライドの高い小さな王子さまが出てきた。

「ポッッチャ!」

 ポッチャマは両手と片足をあげてかまえた。……なんでジュンのマネしてるんだろう。

「まあ!かわいらしいポケモンね♡」
「ポチャ?」

 ポッチャマはかまえるのをやめた。ママに戦意がないと感じたのね。ジュンはバリバリ戦意があったけど。ママはポッチャマをしばらくながめると、落ち着いた声で私に言った。

「ヒカリ、ポケモンをもらったのならきちんとお礼をしてきなさい」

 え?

ナナカマド博士の研究所はマサゴタウンにあるんでしょ?」
「う、うん……」
「それにポケモンと一緒なら草むらだって平気じゃない!」

 顔を少しだけ上げてママを見た。怒ってない……?それどころかママはニコニコしている。

「……怒らないの?」
「どうして?男の子に守ってやるなんて言われたら普通ときめいちゃうじゃない!ジュンくんも言うようになったわね~♡」

 ママは笑いながらパスタを食べ続けている。

「それに…コウキくんだっけ?素敵な男の子に助けられて博士からポケモンまでもらっちゃうなんてラッキーじゃない♪」
「ママ……!」

 わたしは涙ぐんだ目をゴシゴシ拭いた。なんて心が広くて優しいんだろう。わたし、ママの娘で良かった。

「パスタが冷めちゃうわよ。ヒカリも早く食べなさい。ポッチャマのぶんも用意してあるわよ」
「うん!」

 安心したら急にお腹が空いてきた。ポッチャマを抱いて洗面台に連れて行った。私が手を洗ってお手本を見せると、ポッチャマはそれをマネした。手を洗い終わると私はポッチャマをテーブルの上に置いて席についた。

「フォークで食べる?手で食べてもかまわないけど、食べ終わったら手を洗ってね」

 ポッチャマに説明したあと私は右手にフォークを取った。

「それじゃあいっただきまーす♪」

 

***

 

 一足先にパスタを食べ終わったママは、リビングで箱を抱えて待っていた。おなかいっぱいになったポッチャマはソファーの上で眠っている。

「ヒカリ。ママからもプレゼントをあげるわ。開けてみて」

 わたしはしんちょうに包み紙を取って箱を開けた。中には私好みのピンク色のブーツが入っていた。ブーツなんて初めて見た。かわいい!

「これを履いて行かない?かわいいでしょ♡」
「これは?」

 ブーツを手に取ってみた。わたしのひざまでカバーする高さだ。

「ランニングブーツ。マサゴタウンに行くのだって冒険みたいなものでしょ。これを履いていけば遠くだってあっという間!」

 ブーツで走る?私はまじまじとブーツを見た。両脇に白い丸型のプラスチックの飾りがついているピンクのブーツ。ヒールはついてないから走るのに支障はなさそう。でもブーツを履いたからって足が速くなるとは思えない。

「これを履けば足が早くなるの?」
「両脇についている白いボタンを押せば加速するのよ!ハイテクね~。これで足が遅いヒカリでも早く走れるわ」

 もう!お母さんまで!

「どうせかけっこではいつもビリよ」
「ふふっ。冗談よ。気をつけてね」

 ママに釣られてふっと笑った。

「いつもありがと、ママ」

 わたしはママに抱きついた。

 

***

 

「おそーい!ヒカリ!待ちくたびれたぞ!」

 博士に会いにいこうと201番道路に出たら、ジュンが待ち構えていた。

「わたしたち待ち合わせしたっけ?」
「してないけどさ……。オレさ、これからナナカマド博士にお礼をしに行くのさ」
「わたしもよ」

 わたしは手に持ったバスケットをかかげた。

「そのためにママと一緒にカップケーキを作ったんだから!」
「だからおそかったのか」

 ジュンは頭をボリボリかいた。男の子にはお菓子作りの楽しさなんてわからないわ。ジュンは食べるのが専門だし。

「でもさ、オレのお礼のほうがもっとすごいぞ!いいこと思いついたからオレの話聞けよな」
「うん」

 ジュンはどうせ言い出したら聞かないわ。今度はなにを言い出すのかしら?

「いいか!オレたちがいつも遊んでる湖あるだろ」
「シンジ湖ね」

 マサゴタウンとは逆の道に行けばそこにはシンジ湖という美しい湖がある。シンジ湖への道には草むらがない。だからあそこは昔からみんなの遊び場だった。

「あそこには伝説ポケモンが眠っているっていうだろ?」
「一応そう伝えられているけど」

 ……あきれた。私、ジュンがなにを言おうとしてるかわかっちゃった。

「そう!オレたちでそのポケモンつかまえようぜ」

 はぁ……やっぱり。そう来ましたか。

「そうすりゃナナカマド博士も大喜びだろ!」
「つかまえられたら、ね」

 ジュンは一人で勝手に盛り上がっている。

「ついでにコウキによって汚れたお前の手も清めよう!おまえとオレがいればこわいものなし!行こうぜ!」
「はいはい……」

 失礼ね。私の手は汚れてないわよ。コウキくんにキスしてもらったから、むしろ洗いたくなかったくらい♡……パスタ食べるために仕方なく洗ったけど。まあ、コウキくんのことは置いといて……。

 野生のポケモンを捕まえるには空のモンスターボールが必要。ワカバタウンにはポケモン関連の道具なんて売ってないからマサゴタウンに行かなきゃ。伝説のポケモンをそう簡単につかまえられるとは思わない。ここは適当にジュンに付き合って、飽きるまで待とう。ボールを買えるだけ買えば運よくつかまえられるかもしれないし。ボールを買おうとマサゴタウン方面を歩き出したら案の定ジュンに腕を引っぱられた。

「おいっ、ヒカリ。湖はそっちじゃないって!反対方向だぞ」
「えっ?」

 もうモンスターボール持ってるの?

「早く早く!伝説のポケモンもいつまでもオレたちを待ってくれないぞ!!」

 ジュンに無理やりUターンさせられた。

「でもジュン!モンス……」
「ほら、行くぞ!」

 ジュンはわたしの背中を押しながら歩き始めた。話など聞いていない。仕方なくジュンに言われるがまま、シンジ湖に向かった。

 

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