ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『白黒遊戯』 magazine talk

―世の中には自分と同い年なのにとんでもないくらい活躍している人たちがいる。

『magazine talk

 

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 午後5時13分。学校が終わってすでに1時間以上経っている。放課後になったばかりのときはまだ青かった空も茜色になりつつある。3人の生徒は人気のない廊下を歩きやがて学校を去っていった。

「あ~。疲れた~。居残りってマジつまんない」

 茶髪の少女はあくびをした。大きく開けた口を隠そうともせずみっともない。

「誰のせいで居残りするはめになったんだ?」

 黒髪の少年が眼鏡をくいっと上げた。口が「へ」の字になっている。話し方といい表情といい見るからに不機嫌そうだ。

「う~んと……チェレンのせい?」

 金髪の少女が自信なさげに答えた。幼い顔に困惑が見える。彼女自身答えがわかってないようだった。

「違う!どう考えてもノエルのせいだろう!!」

 今日も平和なカノコタウンチェレンのツッコミが入る。

 カノコタウンの名物トリオ:小悪魔ノエル、純天使ベル、苦労人チェレン。3人は緑が生い茂る道を並んで歩いていた。

「だいたい学校にファッション雑誌なんで持ってくるな!」

 チェレンの説教は続く。居残りの原因であるノエルは言い返した。

「いいじゃん。それにあたしのじゃないわよ。ケイトリンのよ。男子だってたまにグラビア雑誌持ってくるじゃん」
「グラビアはもっと駄目だ!」
「あっそ。せいぜいがんばって駆除すれば?」

 2人の痴話喧嘩をよそにべルは例のファッション雑誌を読んでいた。

「ファッションって芸術だなー」

 パラリとページをめくっているとやがてHIKARIの特集ページまで着いた。ノエルはベルの雑誌を覗き見た。ノエルはHIKARIのページを見ると話題を変えた。

「それより見てよ。チェレン。HIKARIってあんたの初恋の人に似てない?」
「はあ?」

 ベルはチェレンにも見えるように雑誌を裏返した。最初は怪訝な顔にしていたがHIKARIの写真をじっと見ると顔色を変えた。

「ま、まあ……。確かに言われてみれば昔近所に住んでいたお姉さんに似ているような……」

 チェレンは顔をほころばせた。初恋の甘酸っぱい思い出に浸っている。

「今どきめずらしい清楚な女性だな」
「ベルたちと同い年なんだよー♪」
「ほう」

 ノエルは心の中でしめしめとほくそ笑んだ。見事にチェレンの説教から逃れることに成功したからだ。

「HIKARI。高級ブランドURAYAMAの専属モデル。来年高校生になるらしいわ。料理も掃除も裁縫もできるの。おまけに真面目。あんたにそっくりね」
「ほう……理想の女性だな。君とは正反対だ」

 ノエルはムッとしたが我慢をした。チェレンは皮肉を言いつつもHIKARIに見惚れていた。そこでチェレンの驚く顔が見たくて次のようなことを告げた。

「彼女シンオウ地方の元チャンピオンなの」
「ええっ!?」

 チェレンは思わず身を引いた。見開いた目に大きく横に開けられた口はまぬけだった。

「この可憐な乙女が?!」

 ポケモンチャンピオンを目指す彼にとってその事実は衝撃的だった。自分と同い年の―それも彼の好みの―少女が昔ポケモンリーグを制覇したというのだ。写真に写る細い体からは想像できない。クスクス笑うノエルの変わりにベルが答えた。

「うん。同じモデルのシロナさんもアキラもみーんな元チャンピオンだよ!HIKARIは3年前シロナさんを倒してチャンピオンになったんだって!でもチャンピオンを継がなかったの。だからジュンがシロナさんを倒してチャンピオンになったのー。…………あ!アキラはシロナさんの前にチャンピオンになったけどチャンピオンを継がなかったんだって!」

 チャンピオン、チャンピオン、チャンピオン。チェレンの昔からの夢、チャンピオン。ベルが長い説明をしている間チェレンは震えていた。移り変わりの激しいシンオウ方のチャンピオンの話を聞いてチェレンは混乱した。

「一体全体どうなっているんだ!?シンオウ地方はチャンピオンの名産地かなにかか?!」
「たまたまチャンピオンの座に興味ない人たちが団子になって挑戦したんでしょ」

 ノエルはそっけなく答えた。だがチェレンの混乱は収まらない。

「チャンピオンになったのにチャンピオンの座を継がないだなんてなにを考えているんだ??」
「一度頂点に立ったから気が済んだんじゃない?」

 ベルが割って入ってきた。

「アキラはただ強くなりたかっただけなんだって!HIKARIは自分が誰だか知りたかったからって聞いたけど……」
「自分が誰だか知りたかったぁ?」

 ノエルはベルの言葉をオウム返しをした。ベルは困ったように言った。

「ベルもよくわからないの。雑誌にそう書いてあっただけだから」
「……なにそれ?」

 ノエルは乱暴に頭を振り腕を組んだ。巨大なポニーテールが揺れる。…………ノエルは孤児だ。彼女には両親の記憶がない。自分が何人なのか、どんな家系だったのか、両親がどんな人でどんな顔をしていたのかもわからない。なのに父母共に健在しているHIKARIは「自分が誰だか知りたかった」と言う。ノエルは鼻をフンと鳴らした。ノエルにはHIKARIの言い分がわからなかった。

「…………僕にはわかる気がする」

 風が強くなった。ノエルとベルはチェレンを見た。チェレンはため息をついた。だがそのため息も風に飛ばされてしまう。

「僕は自分が存在した証を残すためチャンピオンになる。……もちろんチャンピオンになったあとは責務を全うするよ。今まで僕が学校でしてきたように」

 チェレンは昔からやる気のない生徒を委員長としてまとめてきた。それが委員長としての責任だと。彼は頼まれもしないのに他人を心配して面倒を見る人間だった。ノエルとベルは彼と親しいため最も面倒を見てもらっている人間だった。ノエルは頭をかいた。

「自己の存在証明ねぇ……。あいかわらず真面目ね」
「君が不真面目すぎるんだ!…………ところでノエル。僕がチャンピオンになったらHIKARIと会えるように……なるかな?」

 チェレンは照れながら訊いた。どうやらチェレンはHIKARIのファンになったようだ。

「さあ?チャンピオン同士交流あるかもしれないけど……。HIKARIは前チャンピオンよ」
「そうか……。よし!わかった。やはり僕はチャンピオンを目指す!美しく強く優しいHIKARIと会うためにも!」
「おい」

 ノエルは目を細めた。もとはといえばノエルが振った話題だがチェレンがHIKARIにそこまで興味を持つとは思わなかったのだ。どうしようものかと考えていたらベルがチェレンの幻想を砕いた。

「でもHIKARIはジュンかKOUKIと付き合っているって聞いたよー」
「なっ!?」

 チェレンのうぶな心が落雷を喰らった。甘い夢を見られそうだったのに一気に辛い現実に引き戻されてしまった。ノエルとベルはチェレンが立ち止ったことに気づかず彼の横を通り過ぎてしまった。

「だ、誰だ!?そのジュンとKOUKIという輩は?!」

 ノエルは振り返った。チェレンは乱心寸前で顔が怖かった。

「はぁ……。聞いてなかったの?ジュンは現チャンピオンよ」
「KOUKIは男性モデル!……と言ってもバイトでやってるみたいだけど。HIKARIは大学に行くお金を貯めるためモデルをやってるんだよ! KOUKIは飛び級したから今大学生。ポケモンの研究者を目指しているんだって」
「はあ?」

 チェレンは新たな情報に混乱した。ノエルは更なる説明を付け加えた。

「KOUKIはHIKARIと会いたいからモデルやってるんだって。ジュンもたまに雑誌でモデルとして出てるわよ。HIKARIもやってるしKOUKIに負けたくないからだって。ジュンはスポーツ雑誌に出ることが多いわ。チャンピオンだけど運動神経良いからプロ野球やJ-リーグ、あげくの果てにはオリンピックにまで勧誘されてるの。本人にその気はないみたいだけど」

 チェレンは口をパクパクさせた。その口から6文字の言葉が出た。り・か・い・ふ・の・う。理解不能。本当にその通りだ。ノエルはチェレンの意見に同意した。

「ほっっんと理解不能よね!あたしたちと同い年なのにとっくに旅を経験してもう働いているんだもの。HIKARIなんて12歳で旅に出るために通信の中学を卒業してたのよ。で、3年間旅したあと学校生活に戻ることにしたんだって。用意周到よね~」
シンオウカントーでは12歳から旅に出ることができるもんね。イッシュでは15歳からだもん」
「あたしたちももっと早く旅に出たかったよね~」
「ねー!でももうすぐ中学校を卒業するから大丈夫だよ!」

 チェレンは下を向いて震えていた。大人しくなったとように見えたがどうもそうではないらしい。

「ん?どうしたの?チェレン

 ノエルは先ほどから黙っているチェレンに話しかけた。そしたら案の定チェレンの怒りが爆発した。

「もとはといえば……特例として12歳で旅に出るはずだったのに君の小学校の成績があまりにも悪すぎてアララギ博士が「せめて中卒じゃないと……」と気を変えて法律通り15歳から旅に出ることになったんだろうがあああああああああああああっ!!」

 アララギ博士の判断は正しかった。もし12歳で旅出つことを許したら遊び人のノエルのことだ。よっぽどのことがない限りおそらく帰ってこなかっただろう。HIKARIのように旅を終えたあと高校に通うため戻るとは思えない。そのためベルとチェレンの旅も当然見送られ、ノエルとベルの暴走を止めるためチェレンは委員長に任命された。ノエルは舌を出して笑った。

「テヘッ♡ごめんね♪」

 


 

 

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