ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『海のプラチナ』第1話 始まりの朝

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 わたしはずっと我慢していた。目の前にいるのは好きな人。2日前会ったばかりだけど、わたしはその人が好きで好きでしかたなかった。なにか言おうとしたけど言葉がでない。だって今なにか言ったら、私はきっと泣いてしまう。

「本当に行っちゃうの?」

 涙をこらえながら言った。目の前にいるアキラとヒコザルがぼやけてよく見えない。もう会えないかもしれないのに、好きな人の顔がこぼれそうな涙のせいで見えないよ。

「ごめん。この町には寄り道しただけなんだ。でも……」

 アキラはゆっくりと私の頭をなでた。

「おかげでヒカリに会えた」

 その一言でとうとう涙がこぼれた。どうしよう。ふいてもふいても涙が止まらないよ。アキラを困らせたくないのに。口の中が涙と鼻水でしょっぱいよ。上手く話せないよ。 

「また……会えるよね……?」
「もちろん」
ヒコザルにも?」
「もちろん」

 アキラの肩に乗っていたヒコザルがウキキッと鳴いた。

「ヒカリもいつか旅に出な。楽しいよ」
「……うん」
「ヒカリ」

 肩にやわらかい感触がした。アキラが私の肩に手を置いたんだ。手袋をしているからアキラの手がいつもより大きく見える。

「……いい女になれよ」

 

 

***

 

―ピピピピピピピピピッ。

「ん……」

―カチッ。

 わたしは耳障りな目覚まし時計を切った。もう朝か~。……9時5分前だ。寝すぎちゃった。 

「ん~ん」

 軽く体を伸ばした。アキラの夢を見るなんて久しぶり。どういう風の吹き回しかしら。艶のある短い黒髪。キリッとした眼。細いけれどガッチリした体。わたしより頭一つ分高かったアキラ。黒いミリタリーコートが似合っててかっこよかった。……ただ単に思い出を美化しているだけかもしれないけど。アキラと出会ってから3年が過ぎた。わたしはもうすぐ12歳。アキラは15歳ね。今頃どこでなにしているのかしら。

―ピッ。

 なんとなくリモコンでテレビをつけた。丸顔の怖そうなおじいさんが画面に写った。

「ご存知のようにこの世界にはポケットモンスター、縮めてポケモンという不思議な生き物が住んでいる」
「はい。ずっと昔から人間とポケモンは仲良く遊んだり、一緒に力を合わせたりしながら、暮らしてきたんですよね?」 

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 特別番組『ナナカマド博士に訊く!』だ。寝坊したから放送が終わりかけている。アナウンサーと博士の会話を聞きながら私は着替え始めた。

「私達の隣にはいつだってポケモンがいる……その意味を考えていきましょう」
「以上、カントー地方からシンオウに戻ってこられたナナカマド博士のお話でした」 

 番組の終わりを告げる短い音楽が流れた。あ~あ。終わっちゃった。あいかわらずナナカマド博士いいこと言うな~。CMが流れるなかわたしはパジャマを脱ぎ捨て、子ども用ブラジャーのフックをとめた。

 ベッドから離れてタンスに近づいた。上の引き出しを開けてわたしは悩む。今日はなんの服を着ようかな?服を物色していたら誰かが階段を上がる音がした。……ママ?どうしたのかしら。2個目の引き出しを開けたとたん、ドアが勢いよく開いた。 

「おいヒカリ!今のテレビ観たか?観たよな!」
「キャーッ!!」

 わたしは慌てて胸元を両手で隠し、後ろを向いた。ノックせずに部屋に入ってきたのは幼なじみのジュンだ。しかも女の子じゃなくてお・と・こ・の・こ!なんでこんなときに男の子が入ってくるのよ!?

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「ん?ヒカリなんで水着なんか着てんだ?」

 ひどい……!

「水着じゃなくて下着よ!このヘンタイ!」

 わたしはベッドに戻るなりまくらを投げつけた。

「ごふっ」

 クリーンヒット。枕は見事に顔に命中した。

「いいから出てって!!」

 時計やヌイグルミなど手元にあるものを投げまくった。

「わかった!わかったからもの投げるのやめろ!」

 ジュンは慌ててドアを閉めた。ジュンがまたドアを開くとは思えないけど、念のためにドアストッパーをドアの下の隙間に置いた。これで安心して着替えを再開できる。

「はぁ……」

 ため息をついた。もう。最悪。せっかくアキラの夢を見たのに、ジュンのせいで台無しだ。わたしはワンピースを手に取った。これならすぐ着替えられる。着替えている間もジュンはドア越しから話しかけきた。

ナナカマド博士ってポケモンの研究をしてるとってもすごい人だろ!?」
「そうよ」
「ということはポケモンだってたくさん持っているはずだ!」
「まあ、そうなるわね」
「だからさ、頼めばオレたちにもポケモンをくれるぜ!きっと」

 一瞬着替えの手を止めた。……なにをどう考えたらその結論に至るの?

「ヒカリ、着替え終わったか?」

 ジュンの辞書には『忍耐』という言葉はないのかしら?わたしはすべるようにドアストッパーを取った。

「うん。もう入って…」

―ガチャッ。

 ……早いわよ。もう少しでドアにぶつかるところだったわ。

「なんだ。ワンピースかよ。どうりで着替えるの早いと思った。」 

 服をゆっくり選べなかったのは誰のせい?

「えーと。なんだったっけ?」

 ちょっと。

「そーそー!ナナカマド博士ポケモンもらいに行くんだよ!オレ町の外で待ってるから!」
「えー」

 今日は日曜日だから家でゆっくりしようと思ってたのに。

「いいか、ヒカリ。遅れたら罰金100万円な!」

 言うが早いがジュンは行ってしまった。静かになった家でわたしは顔を洗って歯磨きをしたあと髪をとかした。3年前よりかなり伸びている。アキラとお揃いの黒髪は密かに誇りだ。少しは女らしくなったかな?階段を降りたらママの声が聞こえた。

「ヒカリ!さっきジュンくん帰っていったわよ。」 

 そりゃ見てわかるわよ。ダイニングルームにはママしかいないもの。

「なんだかよくわからないけど大急ぎなんだって!ジュンくんどうしたんだろうね。話を訊く前に行っちゃったの」
「あいかわらずせっかちなんだから」

 わたしはママに渡されたサンドイッチにかじりついた。やっぱりトーストされたBLT(ベーコン・レタス・トマト)サンドイッチはおいしい。ジュンはちゃんと朝ご飯食べたのかしら?

「そういえばさっきジュンくんに水着と下着の違いを訊かれたわよ。」
「え?」

 私はパンを噛むのをやめた。いやな予感がする。 

「……で、ママはなんて答えたの?」 

 ママはクスッと笑った。

「そうねぇ……『水着はみんなに見せるもの、下着は好きな人にだけ見せるものよ』って答えておいたわ」
「ママ!!」

 あっきれた!ママはおっとりしている。少しは恥じらいというものを知ってほしい。……ジュンにも言えることだけど。

「そしたらジュンくん、『へぇ。ヒカリのやつ、色気のねえ下着姿だな』って言って帰っちゃった」
「なんですって!」

 わたしはイスをどけてサンドイッチを手に取った。

「ジュンをぶんなぐってくる!」 

 人の着替えを見ておいて『色気のねえ下着姿』ですって?……許さない! 

「いってらっしゃい。……あ、ヒカリ!」

 開きかけたドアを止めた。ジュンをなぐる回数の制限でも言うつもりかしら?一発なぐりに行くだけなのに。

「草むらに入っちゃ駄目よ!野生のポケモンが飛び出すからね」
「はーい!」

 なんだ。そんなことか。

「自分のポケモンを持っていれば大丈夫なんだけど……。じゃ、行ってらっしゃいね!!」
「行ってきまーす」

 わたしはドアを閉めた。町の外って201番道路のことよね?消化に悪いけど、サンドイッチを食べながら走ろっと。

 

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